『中国古代の貨幣: お金をめぐる人びとと暮らし』

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中国古代の貨幣: お金をめぐる人びとと暮らし (歴史文化ライブラリー)

中国古代の貨幣: お金をめぐる人びとと暮らし (歴史文化ライブラリー)

もっと専門的な話を期待していたのだけど、裏切られた。とはいえ、いい意味で。知的好奇心を満たしつつも、なんとなく銭を懐に秦漢時代の市場を彷徨っている雰囲気が得られる、割と身近な一冊だったと思う。

古代中国の貨幣といえば、銅銭というイメージがある(半両銭、五銖銭)。

律令日本も銅銭の先進性に目をつけ(当時のエリートの知的水準の高さを尊敬す!)、導入しようと努力した。まぁ、失敗したんだけど。

これってなぜなんだろうとちょっと思ったりもするのだけど、銅銭以外の貨幣性商品のあり方がかなりヒントになるような気がした。

というのも、古代中国において“貨幣性”をもつ商品はなにも銅銭だけではなかった。たとえば、黄金がそうだったし、布帛も金銭の代わりとして用いられていた。

「凡貨,金錢布帛之用,夏殷以前其詳靡記云。太公為周立九府圜法:黃金方寸,而重一斤;錢圜函方,輕重以銖;布帛廣二尺二寸為幅,長四丈為匹。故貨寶於金,利於刀,流於泉,布於布,束於帛」

(貨幣には、金銭布帛を用いる。夏殷より昔、貨幣がどのようであったかは詳らかではないが、太公望・呂尚が周代に九府閣法を定めたのは確かなようだ。それによると、一寸四方の黄金を重さ一斤とし、円形方孔の銭を秤にかけて一銖とし、幅二寸の布二尺を一疋と定めたという。故に、貨幣は金をもって宝となし、刀において利く(鋭い、儲かる)、泉(銭)のように流れ、布のように広がり、帛のように束ねられる。)

――『漢書』食貨志

官僚の給料の半分は穀物(単位は斛)であったらしいから、穀物も高い貨幣性を帯びていたと考えられる。こういう銅銭以外の貨幣性商品が、ともすれば不足しがちな銅銭経済を補っていたんだね。

ちょっと面白いのは、こうした貨幣性商品が官のみならず、民からも供給されていたことだろう。現在でいえば、国家が発行する紙幣以外にも、決済性のある資産がマネーに数えられるのと似ているのかもしれない(銅銭の私鋳まで認められていた点は、今とはだいぶ違うけれども)。割かし現代的な制度が、現代ほど洗練されていないとはいえ、誕生のときからそのままの姿であったという点は興味深いと思った。

あと、関係ないけど出土した竹簡の命名規則(?)、こういうのって業界では常識であるからだと思うけれど、割と説明されていないよね。この本を読んで初めて知ったかもしれない。たとえば、有名な「睡虎地秦簡」は「湖北省雲夢県睡虎中から出てきた代の竹」という意味なんだな。ほかに秦・漢の刑罰制度を知っておくと読みやすいけれど、これは 大上造ってどんだけ偉いねん - だるろぐ でちょっと以前に調べたからすんなりわかった。