『貨幣の日本史』
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- 作者: 東野治之
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1997/03/01
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案外面白かった。 貨幣の古今東西 - だるろぐ でまとめたように、古代世界の貨幣には二つの大きな潮流があって、初め日本は中国の貨幣システムをごっそり輸入して、あの手この手で根付かせた*1。しかし、明清の海禁政策とポルトガル・オランダといった西洋勢力の進出により、安土桃山以降の日本では西洋の貨幣システムへとシフトしていく。それは名目的な貨幣から素材的な貨幣への一種の“逆行”であり、その後日本は金・銀・銅といった貨幣“素材”の流出と資源払底に苦しむ*2。
そんななか、素材的貨幣システムの枠組みの中で名目的な仕組みを離陸させようとしたのが田沼意次らだ。彼らはその重さ・純度ではなく、刻印された価値量によって流通する“計量貨幣”を発行する。その銀貨・銅貨は実際に刻印された価値を含んでいないが、その素材価値を離れ、名目価値ベースで流通するようになる。彼らは単なる賄賂取りではなく、ちゃんと経済を理解した「(後期)重商主義者」だったのだと思う*3。ここでまた“名目貨幣”への揺り戻しがみられたわけだ。しかし、ここでタイムアウト。近代を迎え、グローバル経済に日本は巻き込まれていく。
結局、日本の中世はそれのみで“紙幣経済”への移行を達成できなかった。けれど一方で、地方では藩札のような完全な“名目貨幣”が流通していたわけで、そこも結構興味深いところなのだけれど(藩札とお金の話 - だるろぐ)。それで思い出したけれど、平安時代に貴族・僧侶の贈与関係が高度化して、贈り物の目録が手形のような役割を果たしたような例もあったっけ。ギリギリいいところまで行くのだけれど、結局ブレイクしないのって、なにが原因なんだろうね……(仮説として 「なぜ産業革命が起こったのか?」 - だるろぐ)。
- 作者: 伊藤幹治
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2011/07/13
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ほかにも、埋葬品としてのお金、永楽銭の字を書いた僧の話、選銭(よりぜに)対策、世界経済に影響を与えた日本の金銀輸出、古銭集め、紙幣のモデルなんかも面白いトピックだったかな。歴史学と古銭学がいい具合に交じり合っていて、資料に裏付けられたリアルな歴史経済を感じさせてくれる本だった。