『十二国記』と『山海経』

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小野主上がなかなか新刊を出してくれないので、『山海経』などを繰りながら、『十二国記』の妖魔・妖獣の復習をしようと思います。

妖魔

『十二国記』では、窮奇(きゅうき)、欽原(きんげん)、蠱雕(こちょう)、天犬(てんけん)、饕餮(とうてつ)、飛鼠(ひそ)、賓満(ひんまん)などの妖魔が登場します。「賓満」だけはわかりませんでしたが、多くは『山海経』に登場するようです。

あとに出てくる妖獣との違いは、「(人間が)馴らして飼えるかどうか」だとされています。

饕餮(とうてつ)

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『山海経』にはでてきませんが、四凶に数えられる中国ではおなじみの怪物です。たとえば『春秋左氏伝』文公十八年などに登場します。

舜臣堯,賓于四門,流四凶族。渾敦、窮奇、檮杌、饕餮,投諸四裔,以禦螭魅。

作中では泰麒が饕餮を下して、使令「傲濫(ごうらん)」にすることに成功しています。そういえば古代中国の青銅器に「饕餮文」というのもありましたね。

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窮奇(きゅうき)

四凶の一角であるにもかかわらず、作中ではわりと雑魚キャラ扱い。饕餮となぜ差がついた――! 『山海経』では西山経にその名前が見えます。

又西二百六十里,曰邽山。其上有獸焉,其狀如牛,蝟毛,名曰窮奇,音如獋狗,是食人。濛水出焉,南流注于洋水,其中多黃貝,蠃魚,魚身而鳥翼,音如鴛鴦,見則其邑大水。――西山経

(邽山の上に獣がいる。その姿は牛のようで、ハリネズミのような毛をもつ。名前を窮奇といい、イヌが吠えるように鳴く。ヒトを食う。)

また、海内北経にも同じ名前が見えます。こちらの方が広く流布している姿のようです。

窮奇狀如虎,有翼,食人從首始,所食被髮,在蜪犬北。一曰從足。――海内北経

(窮奇はトラの姿をしており、翼をもつ。人を食うが、そのときは頭から食べ始める)

後半の訳はよくわからないけれど、高馬氏訳では「食われる人は髪ふりみだしている」となっている。"被髪"は「結わないで自然に垂らした髪」のことを指すともいうので、「髪をちゃんとしてるやつは食われないよ」という注意書きにも見える。

蠱雕(こちょう)

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アニメ版ではしょっぱなに登場する怖い鳥「蠱雕」は『山海経』の南山経に登場。

又東五百里,曰鹿吳之山,上無草木,多金石。澤更之水出焉,而南流注于滂水。水有獸焉,名曰蠱雕,其狀如雕而有角,其音如嬰兒之音,是食人。――南山經

(鹿呉の山から澤更の水が流れ、南の滂水に注いでいる。この川には獣がいて、名を蠱雕という。角のあるワシの形をしており、赤子のような声で鳴く。人を食う)

褐狙(かっそ)

褐狙と酸與は『図南の翼』で登場。アニメ化はよ。

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偏が異なりますが、たぶんこれがモチーフなのではないでしょうか。

又《東次四經》之首,曰北號之山,臨于北海。有木焉,其狀如楊,赤華,其實如棗而無核,其味酸甘,食之不瘧。食水出焉,而東北流注于海。有獸焉,其狀如狼,赤首鼠目,其音如豚,名曰猲狙,是食人。有鳥焉,其狀如鷄而白首,鼠足而虎爪,其名曰鬿雀,亦食人。――東山経

(狼の姿をし、首は赤く、ネズミの目をもつ。声は豚のようで、ヒトを食う)

酸與(さんよ)

又南三百里,曰景山,南望鹽販之澤,北望少澤,其上多草、藷藇,其草多秦椒,其陰多赭,其陽多玉。有鳥焉,其狀如蛇,而四翼、六目、三足,名曰酸與,其鳴自詨,見則其邑有恐。――北山經

(四つの翼、六つの目、三本の足をもつ蛇、名を酸與という。高馬訳「鳴くときはわが名を呼ぶ。これが現れるとその邑に恐慌が起こる」)

"詨"は辞書引いてもよくわかんなかったが(もっといい辞書ほしいな)、呼び交わす、叫ぶ、オノマトペみたいな意味らしい(知らんけど)。“恐”の原義は「突き通して穴をあける作業」。“有恐”の意味はよく分からない。

朱厭(しゅえん)

兵乱を予兆する妖魔。

又西四百里,曰小次之山,其上多白玉,其下多赤銅。有獸焉,其狀如猿,而白首赤足,名曰朱厭,見則大兵。――西山經

(サルのような姿をして、首が白く足は赤い。名前は朱厭。これを見かけた土地では大軍の襲撃を受ける)

天犬(てんけん)

天犬も兵乱を予兆する妖魔。

有巫山者。有壑山者。有金門之山,有人名曰黃姖之尸。有比翼之鳥。有白鳥青翼,黃尾,玄喙。有赤犬,名曰天犬,其所下者有兵。――大荒西經

馬腹(ばふく)

又西二百里,曰蔓渠之山,其上多金玉,其下多竹箭。伊水出焉,而東流注于洛。有獸焉,其名曰馬腹,其狀如人面虎身,其音如嬰兒,是食人。――中山經

(馬腹は人面でトラの体をもち、嬰児のように鳴く。人を食べる)

飛鼠(ひそ)

又東北二百里,曰天池之山,其上無草木,多文石。有獸焉,其狀如兔而鼠首,以其背飛,其名曰飛鼠。澠水出焉,潛于其下,其中多黃堊。――北山經

(ウサギのようだが、首から上はネズミ。その背でもって飛ぶ。名前を飛鼠という)

“以其背飛”は意味がとれない。『デジタル大辞泉』では“コウモリの別名”とされているが、ぐぐるとモモンガの画像が大量に現れて癒される( *´艸`)

妖獣

妖獣は人間か飼いならせるため、騎獣としても利用されます。作中では「吉量(きつりょう)」、「三騅(さんすい)」、「騶虞(すうぐ)」などが登場します。多くは『山海経』に登場しますが、残念ながら「赤虎(せっこ)」だけは見つかりませんでした。

吉量(きつりょう)

犬封國曰犬戎國,狀如犬。有一女子,方跪進柸食。有文馬,縞身朱鬣,目若黃金,名曰吉量,乘之壽千歲。――海內北經

三騅(さんすい)

有蓋猶之山者,其上有甘柤,枝幹皆赤,黃葉,白華,黑實。東又有甘華,枝幹皆赤,黃葉。有青馬。有赤馬,名曰三騅。有視肉。――大荒南經

騶虞(すうぐ)

林氏國有珍獸,大若虎,五彩畢具,尾長於身,名曰騶吾,乘之日行千里。――海內北經

天馬(てんば)

又東北二百里,曰馬成之山,其上多文石,其陰多金玉。有獸焉,其狀如白犬而黑頭,見人則飛,其名曰天馬,其鳴自䚯。有鳥焉,其狀如烏,首白而身青、足黃,是名曰鶌鶋,其鳴自詨,食之不飢,可以已寓。――北山經

駮(はく)

又西三百里,曰中曲之山,其陽多玉,其陰多雄黃、白玉及金。有獸焉,其狀如馬而白身黑尾,一角,虎牙爪,音如鼓音,其名曰駮,是食虎豹,可以禦兵。有木焉,其狀如棠,而員葉赤實,實大如木瓜,名曰櫰木,食之多力。――西山經

北海內有獸,其狀如馬,名曰騊駼。有獸焉,其名曰駮,狀如白馬,鋸牙,食虎豹。有素獸焉,狀如馬,名曰蛩蛩。有青獸焉,狀如虎,名曰羅羅。――海外北經

孟極(もうきょく)

又北二百八十里,曰石者之山,其上無草木,多瑤碧。泚水出焉,而西流注于河,有獸焉,其狀如豹,而文題白身,名曰孟極,是善伏,其鳴自呼。――北山經

鹿蜀(ろくしょく)

又東三百七十里,曰杻陽之山,其陽多赤金,其陰多白金。有獸焉,其狀如馬而白首,其文如虎而赤尾,其音如謠,其名曰鹿蜀,佩之宜子孫。怪水出焉,而東流注于憲翼之水。其中多玄龜,其狀如龜而鳥首虺尾,其名曰旋龜,其音如判木,佩之不聾,可以為底。――南山經


十二国記データベース