『ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて』

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ハンニバル  地中海世界の覇権をかけて (講談社学術文庫)

ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて (講談社学術文庫)

最近はなぜか本を読む気になれないので、軽いのを Kindle でチビチビ読んでる。

この本は古いものを講談社学術文庫に収録しなおしたもののようで、「政治家としてのハンニバル」にスポットを当てるという姿勢は、今ではそれほど目新しいものではなくなってると思う(マンガとかは知らん)。つまり、本書の目的は割かし達成されているわけで(すばらしい!)、今回はその復習となった。

個人的には、ハンニバルの脳裏に描かれていたであろう“世界地図”に興味が湧いたかな。アレクサンドロスは頭の中の真っ白な“世界地図”を埋めたくて東方へ遠征した感じだけど、ハンニバルにはすでに明確な“世界地図”があって、ちゃんとローマのポテンシャルを図った上で緻密な計画を立て(限度はあったろうが)、信念をもってそれを実行した感じ。アルプス越えもそうだけど、マケドニアとの同盟なんかをみても、ちゃんと頭に“世界地図”がある。それに比べると、当時のローマはまだまだ田舎の強豪国に過ぎなかった。――その眠りを覚まさせてしまったのが、ハンニバル、というか、カルタゴとの邂逅なのだけど*1

結局、大局観に恵まれたハンニバルをもってしても、相手のあること、かならずしもうまくいったとは言えない。けれど、戦術・戦略・政治が高いレベルでバランスした東大随一の人物なのは伺える。悲しいかな、人材に恵まれなかったみたいだけど、それはカルタゴの国制にも問題があることで、彼個人だけを責めるのは酷というものだ。

それはさておき、本書を読んでいたらハンニバルそのものよりも、セム民族とカルタゴ市のほうに興味が湧いてきた。日本人はユダヤ問題に疎いところがあるけれど、彼らを知ることは、それを実感として理解するのに役立つかもしれない。同じセム系だしね。ユダヤ人がグローバルに活躍しつつもどこか異質なように*2、ハンニバルとカルタゴもヘレニズムの一部でありながら、異質なところを多く持っていた。ハンニバルの後半人生の不遇も、ヘレニズム世界の教養を身に着けつてはいるが、どこか異質なところに原因があったのかもって勝手に想像した。

そういうところをちょっと深掘りしたいというか、触れてみたい感じがある。

*1:ローマとカルタゴの付き合い自体は、ローマの建国にまでさかのぼることができるから浅いわけではないが

*2:この異質っていう部分に、僕らは鈍感なのだけど