『英語史で解きほぐす英語の誤解―納得して英語を学ぶために』

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英語史で解きほぐす英語の誤解―納得して英語を学ぶために (125ライブラリー)

英語史で解きほぐす英語の誤解―納得して英語を学ぶために (125ライブラリー)

お誕生日にいただいたのですが、ゴールデンウィーク1日目にペロッと読んじゃいました。面白かったです。

blog.daruyanagi.jp

ちなみに、この本をウィッシュリストに入れたのは、“古英語”にちょっと興味を持ったから。

古英語:(Þ は th のことらしい。発音はだいたい綴り通り)
Þā ic hām ēode, þā slēp ic.

逐語訳:(屈曲(性・数・時制などによる活用)が消えてる。語順が自由)
Then I home went, then slept I."

意訳:(現代英語は、屈曲がない代わりに、語順に厳しい)
When I went home, I slept.

日本語の古文もたいがいわからんけど、古英語に比べれば、なんちゅーこっちゃない。ほとんど別言語だ。

目次

  1. 英語は世界共通語である
  2. 英語は昔から変化していない
  3. 英語はラテン語から派生した
  4. 英語は純粋な言語である
  5. 英語は易しい言語である
  6. 英語は日本語と比べて文字体系が単純である
  7. 英文法は固定している
  8. イギリス英語とアメリカ英語は大きく異なっている
  9. 英語は簡単だから世界共通語になった
  10. 英語はもはや変化しない

英語に対する“よくある誤解”から出発する構成になっているのだけど、そもそも自分はこの誤解を共有していなかった。なので、多少「?」と思うところはあったのだけど、それぞれのトピックが面白くて、ほとんど気にならない。

英語はインド・ヨーロッパ語族に属しており、低地ゲルマン語(オランダとか)の親戚なんだそうな。ラテン語なんかはイトコぐらいな感じ。歴史をざっくり俯瞰すると、こんな感じになるっぽい。

- 5世紀以前 ローマ属州 ケルト人がローマの支配を受け入れる
古英語 5世紀以後 アングロ・サクソン人の支配 ローマの退潮により、アングロ・サクソン人が侵入。ケルト人はウェールズ・スコットランド・アイルランドに追いやられる
- 9世紀 アルフレッド大王による統一 古英語の隆盛。ラテン語語彙の流入
中英語 11世紀 ノルマン人の支配 フランス語話者による支配。フランス語彙の流入。書き言葉(ラテン語)・上流階級の話し言葉(フランス語)・下層階級の話し言葉(英語)という構造に。屈曲を失う
- 14世紀 フランス領の喪失・英国のアイデンティティ確立 上流階級の話し言葉も英語に。チョーサーなどが登場し、書き言葉としての英語も復権
近代英語 15世紀 ルネサンス 古代復興・印刷術によるラテン語・ギリシャ語語彙の大量・直接(大陸語を経由しない)流入。“大母音推移”、黙字による綴り字と発音の乖離
現代英語 20世紀 アメリカの独立と発展 大西洋を挟んだ相互影響。世界言語へ

屈曲の喪失(柔軟な語順 → 厳格な語順へ)と“大母音推移”、ラテン語・フラン語をはじめとする語彙流入なんかがトピックになるのかな。とくに、フランス語・ラテン語に書き言葉の地位を一時期奪われたのは、英語を自由にしたらしい。ドイツ語でも話し言葉では屈曲ルールがゆるくなってるらしいけど、書き言葉は伝統に厳格なのに対し、話し言葉は比較的変化しやすい。おかげで、僕らは古英語みたいな複雑な屈曲を覚えずに済んだってわけだ。せいぜい三単現の“s”と不規則変化動詞ぐらいやね。

英語の語彙が、ラテン語・フランス語・在来語の三層に分かれていて、先に行くほどお洒落・学術的・固いっていうのも、日本人が漢語と和語の使い分けをしていたのと似ていて、結構面白い*1。島国には、大陸の語彙が流れ着くようになっているらしい。

なかでも、個人的に一番気に入ったお話は、屈曲の喪失に関する仮説かな。

アングロ人・サクソン人の言葉と、ノルド人の言葉が屈曲の違い程度の差しかなかったらしい。日本人が「てにをは」のできない外人と意思疎通を試みるときに「わたし、京都、行きたい」とあえて「てにをは」を抜いて話すように、アングロ・サクソン人とノルド人も屈曲を省略してコミュニケーションをとっていた――これはかなり魅力的な仮説だ。『ヴィンランド・サガ』みたいな世界だと、ノルド人が一方的に現地人(アングロ・サクソン人)から奪い、支配したのかなどと想像しがちだけど、もしかしたら言葉を一方的に奪うような関係ではなく、もっと対等な関係だったのかもしれない。

政治関係が言語関係に反映されているならば、言語関係をよくしることで当時の政治関係を推し量ることもできるのかもしれない。本書ではいろんな“気付き”(笑)を得たけど、そういうことも一つの収穫だった。

本書を読んでも英語力が上がったりはしないけど、英語に倦んだとき、こういう知識があれば……と思う。なんで高校生の頃に教えてくれなかったんだ!!*2

*1:漢文廃止論なんかはこういう文化的背景を無視していると思う。

*2:ちょっとだけ弁護するなら、ウチの学校で使ってた教材 Progress は、英語の学習をしながらイギリス史を学べる構成になっていたので、その時の知識が世界史や本書のような本を読むときにはとても役に立っている。