『復元 白沢図: 古代中国の妖怪と辟邪文化』
執筆日時:
- 作者: 佐々木聡
- 出版社/メーカー: 白澤社
- 発売日: 2017/01/16
- メディア: 単行本
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“白澤”がなにかすら知らないくせに買ってしまった。たまたま『山海経』の資料をあさってて見つけたんだよ……責めてくれるな。
で、“白澤”とはなにか。
白澤または白沢(はくたく)は、中国に伝わる、人語を解し万物に精通するとされる聖獣である。
『三才図会』によると、東望山に白澤と呼ぶ獣が住んでいた。白澤は人間の言葉を操り、治めるものが有徳であれば姿をみせたと言う。(『佩文韻府』や『淵鑑類函』ではこれを『山海経』からの引用とするが、実際の『山海経』にこのような文はない)。徳の高い為政者の治世に姿を現すのは麒麟(きりん)や鳳凰(ほうおう)に似ている。
黄帝が東海地方を巡行したおりに、恒山に登ったあとに訪れた海辺で出会ったと言われる。白澤は1万1520種に及ぶ天下の妖異鬼神について語り、世の害を除くため忠言したと伝えられる。
要するに、とっても物知りな神獣やね。最近はアニメ『鬼灯の冷徹』でちょっと有名になった。
- 作者: 江口夏実
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/28
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まぁ、こんな(残念な)イケメンキャラクターなんだけど――
これは仮の姿で、正体はこんな感じ。
日本では人面牛身、額と両腹に三つの目をもつ「九眼」の姿で描かれるのが普通だった(日本最古といわれる伝雪舟の絵には「九眼」はない)。
一方、本場の中国では割とあいまいで、龍や麒麟のように描かれたり、獅子と混同されていたりしたらしい。
で、彼がもっていた“1万1520種に及ぶ天下の妖異鬼神について”のアンチョコが『白澤図』だ。
古来、妖魔はその名前や性質を知ることによって退けることができたという。たとえば、私“だるやなぎ”の本名は 柳 英俊(やなぎひでとし)だが、オンラインで知り合った人に本名を言われると気恥しい。ましてや、昔の“不吉仙人”などという恥ずかしいペンネームなぞ知られようものなら、その場で憤死しかねない。また、かわいい女の子に「あなた、ムッツリスケベでしょ」と言われるのも、生きるのが苦しくなるぐらい耐え難い。――まぁ、そんな感じで、妖魔を退けるにはその真名を唱えたり、性質を把握するのが大変役に立つと思われていたわけだ。
そんなわけで、白澤は“辟邪(邪悪を退ける)”神獣でもあった。本当は『白澤図』を身に着け、その内容に通暁し、妖魔に出会ったらしかるべき処置をしなければならないのだが、いつの間にか白澤の絵をもっている・掲げているだけで邪を払うことができるということになっていったらしい。――まぁ、面倒くさいしね、わかる。
これは別に庶民だけじゃなく、軍隊でも用いられていたらしい。宋では龍首・緑髪、頭に角を戴き、飛走する白澤を描いた赤地の旗を二旒、元では赤地に黄色の縁取りで、虎首・紅髪、角を戴いた龍身の白澤を描いた旗を用いていたという。ちょっと調べてみたら『通典』にも
十一年六月,敕諸衛大將軍、中軍中郎、郎將袍文:千牛衛瑞牛文,左右衛瑞馬文,驍衛大蟲文,武衛鷹文,威衛豹文,領軍衛白澤文,金吾衛辟邪文,監門衛師子文。每正冬陳設,朝日著甲,會日著袍。
とあり、軍人の袍(上着)の文(たぶん模様)に使われていたそうな(領軍衛は都駐屯の軍のことみたい)。
残念ながら『白澤図』の内容は現在に伝わっておらず、他の文献での引用(逸文)からうっすらと内容がわかるに過ぎない。本書が割と薄いのもそのためである(ぉ
個人的に思うに、『白澤図』が残らなかったのは絵が中心だったからじゃないか。『山海経』にも地図や絵画があったらしいが、現在ではテキスト部分しか残ってない。字がかける人間より絵がかける人間の方が貴重なわけで、今みたいになんでもコピーできるわけではない時代、グラフィック中心の本は残りにくかったろうなと思う。