『白と黒のとびら: オートマトンと形式言語をめぐる冒険』

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白と黒のとびら: オートマトンと形式言語をめぐる冒険

白と黒のとびら: オートマトンと形式言語をめぐる冒険

最近読んだなかでは一番面白かった。夜寝る前に読み始めて、明け方前に読み終えてしまった。4年近く前に出ていたのか……全然知らなかったぜ。

この本に書かれているのは、偉大な魔法使いに弟子入りした平凡な少年の物語です。彼は魔法使いになるための勉強をしていく中で、奇妙な「遺跡」と奇妙な「言語」に出会い、それらに隠された秘密に迫っていきます。物語はもちろんフィクションですが、お話を読み終える頃には読者の皆様はいつのまにか、現実の学術上の理論――情報科学・数学・認知科学における、ある重要な理論――の基本的な概念に慣れ親しんでいらっしゃることと思います。白と黒のとびらがいざなう魔法の世界で、皆様に楽しく遊んでいただけましたら嬉しく思います。

オートマトンは自学自習したけどよくわからなくて――というか、計算科学ではくっそ大事な概念らしいのに、これを学んでなにがうれしくなるのかがさっぱり分からないという辛さがあった(作中で言えば、古代ルル語をひたすら覚えさせられていたフェイズだな。)。あのときにこういう本があれば、楽しく勉強できただろうになぁ!

「あ、これ有限オートマトンの話だろうなぁ」「引換券入れる筒がオーバーフローしたら神」「チューリングマシンでてきたぞこれ!」と思いながら、楽しく読めた。あ、でも巻末の解説で答え合わせしたら、自分がチューリングマシンだと最初に思っていたやつは“機能限定の”ヤツだった(こういうところに学習が生半可なところがあらわれちゃうね)。

とにかくよくできていると思った。メタファーとして無理が少なく、リクツとしては割りと込み入った話なのにスッと入れる。文学的完成度で言えばもう少し手を加えられるところはあると思うけれど、中学受験を控えた小学六年生なんかが読むにはピッタリなのかもしれない。

「僕には、魔法を使う力が、本当にあるのでしょうか」
「当然だ」
「へ?」
「お前はよくわかっていないようだが、魔法を使うためだけに必要な特殊な能力というものは存在しない……」
「では、魔術師と普通の人は、なにが違うのですか?」
「魔術師は魔法の専門家だ。漁師が魚を捕ることの専門家、道化師が道化の専門家であるのと同様にな」

(……部分は中略。以下同)

この辺りは、これから魔術を学ぼうという人のための心構えとしても大事だと思う。特別な才能なんかなくても、“魔法”は操れるようになる。

「普通の人間であっても、知らないうちに魔法を発動させることがある。……ただし修行を積まなければ思い通りにできないので、『偶然』と見分けがつかない。……」
「魔術師になれば、狙い通りに魔法を使えて、力も制御できるのですか?」
「それが修行の目的だ。魔法というものはある意味、世界に隠された『パターン』や『構造』を見出し、それを精神的に操作することであるとさえ言える」

「こうするとなぜか動く」とコメントを書いちゃうオレや、コピペやこれまでの経験に頼りすぎて Fizz Buzz も書けないなんていうヒトには耳の痛い話だと思う。

続き物でチューリングマシンの話が上下巻であるみたいなので、そっちも今度読んでみるつもり。今から楽しみだ。