『戦国大名の兵粮事情』
執筆日時:
- 作者: 久保健一郎
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 2015/11/20
- メディア: 単行本
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買ってはみたものの、たいして興味はなかったらしい(著者のなかのひとには申し訳ない)。サラサラっと読んでパタンと閉じた。たぶん「石田三成が朝鮮征伐でどんな緻密な兵糧輸送計画を立てていたのか!」みたいな内容を期待していたんだろうな。
でも、いくつか発見はあった。
戦国時代の兵站っていうと、
- もっていく:荷駄で運ぶ・足軽が担ぐ・腰兵糧
- 現地調達:敵の輜重を狙う・青田刈りみたいなやつ・領民から略奪
のどちらかっていうイメージがあって
- 商人から買う
っていう手段は確かに忘れられがち。本書でも、里見氏が商人と兵糧の値段交渉で揉めてる間に、「腰兵糧だけでこい!」と兵を動員して急襲した北条氏が勝っちゃったなんて言う例が引かれていたけど、ほかにも秀吉が兵糧を買い占めて餓え殺しにしたとかいう例もあるよな(鳥取のは後世の創作かもだけど)。兵糧を買っていた鴨っていう点にはもう少し目を向けていいかも。
そして、それは戦時だけのことじゃない。
たとえば、飢饉や籠城に備えてコメを備蓄するのは当たり前だけど、そのコメだって定期的に消費して新しいのに入れ替えないとダメ。また、貯めてるだけでは腐るだけだけど、それを資産として運用すればおカネになる。借金があれば人件費に「御蔵米(備蓄用のコメ)」をあてがう必要もある。単に溜めておいて、戦争のときに使うというわけにはいかなかったんだな。
当時はコメが貨幣に準ずる商品でもあったから、留めておけばいいというものではないし、流れることを止めることもできない。本書でも武田・上杉同盟のときに軽い経済の自由化もをしたが流出を恐れて兵糧だけ禁制にしたみたいな例も紹介されていたが、平時から兵糧のコントロールっていうのもだいぶ大事だったらしい。
そこで重要になるのが商人とのおつきあいなんだけど、一方で部下や領民の困窮から救うために「徳政令」も用いざるを得なかった。そのバランスがすんげー大変そうな感じだった。戦時徴発の正当性の問題なんかも、今まで考えたことなかったのでちょっと興味深かった。こういうことに対する抵抗とその法制化が行われた西洋との比較も面白いかも。
そんなことを思いつつ読んでいたせいか、個人的にはちょっと物足りない部分があった。事例が関東に集中しているのと、著者がカネとモノの対比を強調する割にはあんまりカネとモノそのものに対する考察が盛り込まれていない点も気になったかも。せめて商業を制して(ほんとかな?)日本の統一を果たした織田・豊臣陣営にもその視点を持ち込んでみたらもっと面白かったかもなーと思う。むしろそういう面では西国の方が進んでいただろうしね。素人が勝手に抱いているイメージだけど。
領国と領国は戦争でしかつながっていないイメージ(境界の問題)だけど、実は平時から商業による結びつき(交換)の世界もあった。でも、その商業こそがその商機として戦争を望んでいる面もあったのかもしれない。そういう考えは現代では割と当たり前だけど(軍産複合体の話とか好きな人いるよねー)、戦国の世界もそんな感じだったのかも。矢合わせ・槍合わせばかりが戦いではないということやな。