『褐色の文豪』

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褐色の文豪 (文春文庫)

褐色の文豪 (文春文庫)

古本屋さんをぶらぶらしていて見かけたので購入。読み始めてから知ったのだけど、この本はアレクサンドル・デュマ三代を描いた三部作の二部目に当たるんだね。一作目の『黒い悪魔』を先に読むべきだったかもしれないけれど、この作品はこの作品でちゃんと独立した読み物になっているので、とくに問題ないだろうと思う。

本作の主人公は、3人の“デュマ”のなかで恐らくもっとも有名な“大デュマ(Dumas, père)”。言わずと知れた『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』や『三銃士』を書いたフランスの大作家だ。彼は戦場を駆け巡った将軍でもなく、権謀術数渦巻く宮廷を生き延びた政治家でもなく、新大陸に向けて帆をあげた冒険家でもなく、まぁ、言っちゃ悪いけど単なる作家なのだけど、よくもまぁ、その生涯をこんなに面白く書けるもんだと感心する(まぁ、確かに、大儲けしたり、破産したりと破天荒な部類だけど!w)。本人の視点、母の視点、愛人の視点、友人の視点、共著者の視点、ライバルの視点……幕をうまく繋いで大きな劇に仕立てあげるやり方は佐藤賢一風の書き方は、この題材にすごくあってるように思う。デュマの書く劇作もこんな感じだったんだろうか。

それにしてもなんか、読んでいて不思議な感じがする。子どもの頃、『モンテ・クリスト伯』や『三銃士』はよく読んだものだ。うちには割といっぱい本があって、小さいうちからそれに親しんでいたが、その中にもこの二冊があった。母が明かりをおとした後も、布団の中で懐中電灯をつけてこっそり読んでいたものだ。そんな二冊が作中で勢いよく綴られているのを、またこの歳になって読むというのは、変な気分だ。共和国の将軍として活躍した父の背を追いかけてデュマが書き、それを夢中で読んでいた読者たちのなかに、時代こそ違え、昔の自分が混じっている。それを佐藤賢一が書いたこの本で、思い出す。

なんとも変な感じだ!

小説フランス革命シリーズを読み疲れた人たちにもお勧め。理解が立体的になるし、なにより、ペロッと読めて面白い。