『艦長たちの太平洋戦争―34人の艦長が語った勇者の条件』
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艦長たちの太平洋戦争―34人の艦長が語った勇者の条件 (光人社NF文庫)
- 作者: 佐藤和正
- 出版社/メーカー: 光人社
- 発売日: 2010/01
- メディア: 文庫
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この本に登場してインタービューに応えた“艦長”のほとんどは、もうご存命ではないのではないだろうかと思う。そういう意味で、とても貴重なインタビュー集。「勇者の条件」にはまったく興味がなかったのだけど(笑)、とても興味深く読ませていただいた。
個人的なツボ。
- (連装)主砲を1門ずつ交互に打つ場合を「一斉射撃」といい、2門同時発砲する場合を「斉射」「斉発」と呼ぶ。戦艦「扶桑」は他の戦艦より「斉射」したときの散布界(着弾の収束範囲)が若干広かった。
- 石丸隊と「瑞鶴」:第二次ソロモン海戦で「瑞鶴」は空母「サラトガ」と「エンタープライズ」を攻撃。第二次攻撃隊は300カイリ離れた敵の予想位置へ飛び立ったが、空母を発見できなかった。しかし、燃料が心もとないので虚しく反転しようとしたそのとき、爆隊第三中隊長の石丸大尉は、黒く小さな点が網膜に映るのを感じる。敵かもしれないと燃料切れ覚悟で独断、9機を率いて突入するが、ついに敵艦隊を発見できなかった。「瑞鶴」は石丸隊を収容しようと単独で全速南下、辛うじて石丸隊を母艦に収容する。母艦と艦載機のきずなを感じさせるエピソード。
- 南太平洋海戦時、空母「翔鶴」には電探があった。
- 南太平洋海戦で「翔鶴」が被弾。艦載機は「瑞鶴」で収容したが、すべてを収容しきれなかったため、少しでも傷ついた機体は修理すればまだ使えてもその場で捨てざるを得なかった。燃料不足で着水・放棄した機体も多くあったという。
- 軽空母「隼鷹」の最大速力は25.5ノットと言われているが、実際は24ノット(秒速12メートル)。無風状態では全速を出しても重量のある彗星や天山を発艦させることはできなかった。
- 操船改造空母のメリット:経済速力が高い。通常の軍艦が12ノットのところ、16ノットで巡航できる。足の遅い潜水艦から逃げるときには大きなメリットに。また、小回りが利くので回避運動には適していた(ただし、当たると即死)。
- 軽空母「飛鷹」「隼鷹」の汽缶の圧力は40km/cm^2。日本海軍艦艇の中では最高。
- マリアナ沖海戦では「長門」「隼鷹」「飛鷹」が梯形陣をとっていた。何故かは書かれてない。
- 航空戦艦「伊勢」(中瀬少将)は取舵、「日向」(野村少将)は面舵で急降下爆撃を回避していた。意味はなく、言いやすかっただけらしい。
- エンガノ沖海戦で航空攻撃すべてを回避した中瀬少将はハルゼーに「老練な艦長」と評されたが、実はエンガノ沖海戦がデビュー戦だった。
- リンガ泊地は島に囲まれた水深30メートルの浅海で、潜水艦の行動が制限されるため安全な泊地だった。パレンバンから重油が供給されるのもグッド。
- 一方、タウイタウイ泊地は広いため艦隊の訓練に最適だったが、湾口に潜水艦が潜んでいるので割りと危険だった。終結したものの空母の訓練ができず、“マリアナの七面鳥打ち”に。
- 巨大な戦艦や空母が何隻いても、それを守る駆逐艦がいなければ裸同然。
- 「長門」が最初に敵へめがけて撃ったのは、雷撃機に対する三式弾。水平射撃の一斉射一発で五機編隊を全滅させたという。誕生して27年目、初めての砲撃の相手は戦艦ではなく航空機だった(おそらく戦艦に向けて発射されたことは一度もなかった?)。
- ちなみに「長門」は面舵回避だったらしい。
- 「長門」の3つの幸運:①雷撃機2機からの魚雷が衝突コースに。挟み撃ちとなり回避不能だったが、右回頭したところ、そちら側の魚雷が波に叩かれて変針して逸れた。②雷撃機から至近距離で放たれた魚雷が船腹に刺さりそうになったが、艦底を潜り抜ける。③艦首に爆弾が落ちるが、たまたま装甲の薄い部分で、穴をあけただけで突き抜ける。――結局、シブヤン海ではかすり傷一つ負わなかった。
- 「「間宮」は大正13年に完成した一本煙突の船でね。食料を搭載して各艦に供給するだけでなく、艦内で羊羹、最中、豆腐、こんにゃくの製造室があったり、間宮製アイスクリームは絶品だったし、とにかくよくできたフネでしたよ。」(野村少将、「日向」艦長を務める)
- 初期の駆逐艦は魚雷戦を念頭に置いた艦隊決戦用だったが、空母の護衛用途につかうには足が短く、対空兵装が貧弱だった。そこで開発されたのが「秋月」型。
- 走りながらの洋上補給は約8ノットで訓練していた。しかし、それでは潜水艦に狙われるので実戦では14ノットで実施。危険かというと、案外舵はよく効くし、艦も安定してやりやすかったという。
- マリアナ沖海戦で駆逐艦「初月」が空母「瑞鶴」に油を抜かれる。「それにしても、駆逐艦が空母に給油したなんてことは、おそらくほかに記録がないと思いますよ」
- 「秋月」は空母「瑞鳳」へ向かっていた魚雷を阻止して轟沈したことになってるが、実は違うらしい。輪形陣で戦っていた味方からの(意図せざる)誤射かもしれない
- 初期の九三式魚雷は信管が鋭敏すぎて命中前に自爆することが多かった。信管を鈍くする改良が行われたがそれでも不十分で、第三次ソロモン海戦では16本の魚雷を「サウスダコタ」へ放ったが命中直前にすべて自爆。水柱がボイラーの火を消すが、被害はそれだけ。
- ハワイ作戦で防潜網に引っ掛かった「伊169」。必死の復旧により48時間で再浮上を果たすが、洋上には敵駆逐艦が。電池を使い果たしていた「伊169」は、万国共通のモールス信号で「WHAT、WHAT……」と打ち続けて洋上航行、貴重な5分の充電間を稼いで急速潜航で逃げ切った(板倉少佐の項)。
- 駆逐艦「狩萱」が護衛した「陸軍の空母」って「あきつ丸」?
潜水艦や海防艦の話なんかも面白かった。
ちょっと思ったのだけど、自分の失敗も率直に語ってる方もいて、真摯な方だなぁ、と思った。勇者でも名将じゃなくてもいい。そういう人でいられたら自分は十分だな。