『日本軍と日本兵 ――米軍報告書は語る』
執筆日時:
- 作者: 一ノ瀬俊也
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/01/17
- メディア: 新書
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個人的に「意外だなぁ」と思うことのオンパレードだった(知ってたことも多かったけど)。
- 接近戦を恐れる。銃剣術はお粗末。静止・集団射撃はややマシ、移動射撃はひどく下手
- 規律は良好。事前の準備がしっかりしていたり勝てそうだと粘り強いが、予想外の事態に直面するとパニックに陥りやすく、個人判断を苦手とする
- センシティブで威嚇射撃に簡単に引っかかり、軽はずみな反撃で陣地の位置を暴露してしまう
- 奇襲・奇策を好み、陣地の偽装もうまい。夜襲に固執する(でも、それではせっかくの奇策が“奇”でなくなる)
- ケガ・病気をしてもろくな待遇が受けられない割りに、死者には丁重なあつかい
- 兵卒は買春の機会があまりない。性病にかかるとしこたま殴られる。待遇に不満があっても宗教や麻薬には逃げない
- 「貸し借り」にこだわるので、ちょっと優しくすると恩にきてすぐ秘密をべらべらしゃべる
- 都会出身の兵は割りと親米。「鬼畜米英」という蔑称も、流布したのも実は戦争末期になってから
- L の発音が苦手だから、それで中国人(同盟国)と見分けろ
ほかにもいろいろ。これのいくつかは日露戦争期でも言われていたことで(射撃が下手とか人命軽視だとか)、すぐに民族や組織の体質ってのは変わらないのかなぁ、とも思った。
まぁ、なんというか、「アメリカさんはよく敵のことをシッカリ分析するものだなぁ」と思う。第二次世界大戦で日本はアメリカの物量・工業力に負けたというイメージがあるけれど、こうした「勤勉さ」ですでに負けていたんじゃないかな……自分が知らないだけかもしれないけれど、日本軍が米軍ほど敵の分析をまじめにしたのかというと疑わしい。日本が米兵をどのようにみていたのか、という逆視点の本も読んでみたいな。
こうした日本兵・日本軍の特徴を自分なりにちょっと乱暴にまとめると、日本軍というのはミクロな最適化は得意だが、マクロな最適化は苦手とするということになりそう。
たとえば、比較的小規模なグループに限られた予算と明確な目標を与えると、入念に準備したうえで、制約の中でできるだけパフォーマンスを発揮できるように理性的に行動する。しかし、どのグループにどれだけ予算を与え、どのような目標を与えるのかというもう一層上の判断になると途端に利己的になったり、仲間内での主導権争いで消耗し、合理性を失ってしまう。あの悲惨な特攻作戦・肉弾作戦だって、与えられた予算と目的という制約下では、割りと合理的な手段だった。問題はそういう予算と目的を安易に設定し、困難を下の階級のものへ押し付けて反省しない上層部のメンタリティだ。
まぁ、どの民族であれおおかれ少なかれそういうところはあると思うけど、日本人はそれが(経済的・文化的水準が高いにもかかわらず)ちょっと顕著なのかな。「日本人は見ず知らずの相手を信じて協調することが苦手」というのはいくつかの実験から明らかになっているけれど、その悪いところがでてしまっている。
自分で考えて行動し、それに責任をもてる人を少しでも増やしていくには、どうすればよいのだろう。そういう社会こそファシズムに耐性のある社会だと思うし、これからも平和を維持するうえで、日本人の課題になると思う。