『経済学と人間の心』
執筆日時:
- 作者: 宇沢弘文
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 単行本
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iPhone 5S 買ったった。 - だるろぐ で機種変更の手続きを待つ間に、大船の BOOKOFF で購入。たまたま帰りの電車で読む本がなかったところ、今や懐かしい『神の国』発言の批判や「脱ダム宣言」への想い、ジェイコブズと都市の話なんかのエッセイが収録されていたのがなんとなく気を引いた。
宇沢弘文のような大先生が、晩年になって無味乾燥な(正統的)経済学を批判し、経済学に人間味を取り戻そうと言い出すことは割とよくあるパターンだと思う。そのとき残念に思うのは、せっかく若い頃に縦横無尽に使いこなしていた数学的ツールを捨てて、なんだかスピリチュアルな方向へ話が向っていってしまうところ。
よく「愛が数学で証明されてはつまらない」みたいなことを言う人がいるけれど、僕なんかは「愛が数学で証明されること」はとても素晴らしいと思う。論理能力(理性)が欠けてさえいなければ、どんなアホにでも愛の素晴らしさがわかるし、それを否定することを正当化できなくなるはずだからだ。
まぁ、こんなエッセイ集で数式を持ち出しても誰も読まないわけで、単にここに書いていないだけであって、裏ではちゃんとやることをやっているのかもしれない。けれど、自分が知りたいのはそこなんだよね。具体的なモデルをみせてほしい。まぁ、そういうのは古本屋でエッセイ集を買うんじゃなくて、一万円出して専門書を買って読めって話なのかな(それは確かにそうだ)。
ともあれ、ひとつひとつのエピソードは、結構面白かった。割りと公演などで使いまわしているそうだけど。
ただ、官僚陰謀論は鼻についた。実際に文部官僚とのやり取りがあったうえでの批判だと思うけれど、まぁ、文部官僚だって割りと大変なんじゃないの。
マルクスが偉かったのは――この文脈でたとえるならば――文部官僚がクソなのは彼個人がクソだからではなく、彼を取り巻く環境がクソだからだということを明らかにし、その処方箋を(不完全ながら)書こうと試みたことにあったと思う。資本家が労働者を搾取するのは、彼個人がたまたまサディストだったからそうしているのではなく、資本運動という誰もあらがえない巨大なうねりが、彼をしてそう為さしめているわけだ。最近よく耳にするブラック会社の話で言えば、ワタミの社長を叩いても無駄で、なぜそんな会社が生まれるのか、そして潰すにはどのような制度設計が求められるのか、ということが大事。
だから、人間らしい経済学というのは、そういった“非人間的な”社会構造を明らかにして、それをいなす術をみつけることにあるのだと思う。「脱ダム宣言」が挫折したのは残念なことだと同情するけど、なぜ(宇沢先生の言う通り)地元民の理解と協力があったにもかかわらず議会での反発を招いて失敗に至ったのか、そこにどのような構造があったのかが明らかにされるべきだと思った。
社会的共通資本って理念としては大賛成なのだけど、じゃぁ、それをどうやってインプリメントすればいいのかというと、まったくみえないな……
社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。
社会的共通資本は、一人ひとりの人間的尊厳を守り、魂の自立を支え、市民の基本的権利を最大限に維持するために、不可欠な役割を果たすものなのである。
これだけ読むと、社会的共通資本というのは(古典的)共和主義が掲げてきた精神とほぼ同等のものだとわかる。ただ、それを基本的に“社会的装置”、つまりモノとしてとらえているあたりが、少し不満かなと思わないでもない。
社会的共通資本は、自然環境、社会的インフラストラクチャー(ライフライン)、制度資本(教育、医療、司法、金融……)の大きな三つの範疇に分けて考えることができる。
まぁ、公共財的(非競合性、非排除性)な環境・インフラ・制度といっていいと思う。
…社会的共通資本は、決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって支配されてはならない。
つまり、贈与(国家、官僚)でも交換(市場)でもない、第三のルールで支配されなくてはならない。それはどんなものかというと……
社会的共通資本の各部門はあくまでも、職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規範にしたがって管理・維持されなければならない。
プラトン的な世界だな。それが実現できると考えているのであれば、割りと楽観的だと思う。少なくとも、研究費の取り合いと論文詐欺が横行しているような状態では先行きが思いやられる。