『同時代史』

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同時代史 (ちくま学芸文庫)

同時代史 (ちくま学芸文庫)

私が今から述べるのは、災禍に満ち、相克で悲惨な、擾乱で反目し合う、平和ですら血腥い時代の物語である。四人の元首(皇帝)が剣で命を絶たれ、三度内乱が起こり、それよりも多い外敵との戦い、そのいくつかは内乱と外戦を織り交ぜていた。

言わずと知れたタキトゥス(タキトゥス - Wikipedia)の著作。『アグリコラ』『年代記』などの著者でもあるが、一番有名なのはたぶん『ゲルマニア』。高校の世界史で習ったよね!

本作は4巻(ほんとはもっとあるが散逸)から成り、それぞれ“剣で命を絶たれた”3代4人の皇帝と勝者ウェスパシアヌスにおよそ符合している。

古典といえば重厚長大、重々しくて長ったらしいというイメージが個人的にあるのだけど、この『同時代史』はスピード感があって、一気に読んでしまった。原文がいいのか、訳がいいのかはよくわからないけど、たぶん両方いいんだろう。

ただ、文句がないわけでもない。

というのも、たぶんローマ史をひととおり把握してないとわからないことが多すぎる。たとえば、さらりと「援軍」と訳されているが、これは Auxilia(アウクシリア - Wikipedia)のことで、要するに正規軍(legio)ではない、同盟市や友好部族が供出する補助軍団のことだ。これはローマ帝国のそのまえ、まだ共和制だった都市国家ローマが同盟市から援軍を得たことに由来していて、装備も編成も異なる。古代では金銭で協力するよりも、「血」で協力することがより名誉なこととされていた(今でもそうだとは言えるけど)。

あとは、だいたいの地理。「ルグドゥヌム」がどこかパッとわからないようでは、少し辛い。首都および各地の軍団の関係も把握してないと、よくわからないことになる。大きく分けてローマ軍団はライン川(高地・低地)、ドナウ川、シリアを守っていて(細かく言えば、ブリタニアとアフリカにもいる)、それぞれ異民族から帝国を守っていた。おそらくそれぞれ自分たちを最強だと自負していたろうし、対抗意識もあったんじゃないかな。それが事態をややこしくさせる。

もちろん後ろの方に詳細な註が付いているのだけど、いちいちページを行ったり来たりするのは骨が折れるだろう。ルビを援用したり、カッコ書きで補足を加えるといった工夫があればもっとよいのに、と思った。

まぁ、いつもはあんまりそういうことを気にしないのだけど、普通の人にも薦めたい本だと思ったので少し気になった。