『十八史略』
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- 作者: 竹内弘行
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/10/10
- メディア: 文庫
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土曜日に本棚を整理していたら、真っ新なカバーがかけられた、手垢のついていない『十八史略』が出てきた。買ってはみたもの、そのまま放置していたらしい。ついつい手を止めてページを繰ると、これが面白い。夕方、友人と食事をする約束をしていたのだけれど、時間を忘れて読みふけってしまった。おかげで遅刻しました、ごめんなさい。
『十八史略』は、史記から五代史に至るまでの正史・十七史に、著者・曾先之が生きた宋代の歴史を加えた“十八史”のダイジェスト版。講談社学術文庫の『十八史略』は、そこから重要な部分のみを抄録したものに過ぎず、とくに五胡十六国以降が薄くてちょっと物足りないけれど、序に設けられた“総説”は興味深く読めた。『十八史略』の歴史が丹念に調べられ、簡潔にまとめられている。
僕と『十八史略』の出会いは、中学の頃に『小説十八史略』を読んだことだった。
- 作者: 陳舜臣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/01/08
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それで漢文が好きになり、学校の図書館で原文と書き下し文を結構読んだものだった。かなり分厚い本で、自分以外誰も読んでいなかったのか、とてもきれいな本だったのを覚えている*1。
そういう思い入れがあるので、本場中国では『十八史略』が子供向けの史書のツギハギで、四庫全書に納めるに値しない書物と評価されているのは少し悲しい。けれど、宋の滅亡を目の当たりにし、文天祥を初めとする知己の多くが非業の死を遂げてなお50年余り生きた曾先之にとって、それは不名誉なことではないのだと感じる。
確かに“覚え歌”のようなものを冒頭につけたり、些末な考証よりも簡潔さ・面白さを優先したのは、真っ当な学者からすれば、学術的価値・文学的価値・資料的価値の観点で低く評価せざるを得ないだろう。でも、曾先之だって進士に及第した知識人なのでそんなのは承知の上だったはず。
彼がやりたかったのはおそらく、新しい王朝の下、これまで連綿と受け継がれてきた“歴史”を次世代に伝え、育てることだった。子どもたちが過去の人の生き様を学び、そこから何かを得て、生きていくために役立ててほしい。だから、あのような書き方になった。そう思えば、「ちょっと端折り過ぎだなぁ」と思わせられるところにも、著者の温もりを感じられる。きっと足りない部分は、子ども相手に面白おかしく身振り手振り口八丁で伝えたのだろう。「……というのも、実はこんな事件もあって……」「実はこれには後日談があってだな…」
そう思えば、昔読んだ時とはまた違う愉しさが感じられる。
ちなみに、僕はやっぱり劉秀とか班超が好きだなぁ。あと今回読み直して気に入ったのは、虞詡かな。
鄧騭兄弟以詡異其議,因此不平,欲以吏法中傷詡。後朝歌賊甯季等數千人攻殺長吏,屯聚連年,州郡不能禁,乃以詡為朝歌長。故舊皆弔詡曰:「得朝歌何衰!」詡笑曰:「志不求易,事不避難,臣之職也。不遇槃根錯節,何以別利器乎?」
外戚として国政を壟断してた鄧騭は、清廉潔白でなにかと煙たい虞詡をハメようと、朝歌の地へ派遣した。当時の朝歌は、野盗が猖獗して官軍が敗れ、地方長官ですら惨殺されるありさま。心ある人は皆それに同情したが、虞詡はそれに笑って答えて言う。「槃根錯節あらずんば、何をもって利器を別たん?(絡み合った枝葉やどっしり根を張った切り株がなけりゃ、鋭い刃物も使いどころがないからね)」
後漢に活躍した、気骨のある清流官僚が結構好きなようだ。
*1:新釈漢文大系だったのかなぁ、自分で買うと全巻で100万ぐらいして少しビビる