ハリントンの政体分類

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ハリントンの政体分類においては、プラトンにおける「権力者の数」「法による支配の有無」、アリストテレスが追加した「国民の共通利益に合致しているかどうか」という伝統的な基準に加え、社会の“下部構造”、すなわち「所有のバランス」という視点が加わる。

支配者と所有者の関係が一致していれば(political balance)、その関係は(暴力の介入がなければ)自然に維持される。支配者と所有者の関係が乖離していれば、その関係は暴力によって維持されているはずで、早晩暴力によって破壊される。

絶対君主制(absolute monarchy)

もし一人の人間が領土の唯一の所有者であるか、あるいは、たとえば四分の三というような割合で、所有において人民を圧倒する場合には……その支配は絶対君主制である。

混合君主制(mixed monarchy)

もし少数者ないし貴族階級が、または貴族階級と聖職者階級がすべての所有者であるか、上の場合と同じような割合で、所有において人民を圧倒する時には、それはゴシック・バランス(the Gothic balance:封建制)を生み、その支配は混合君主制となる。

民衆政体(popular government)

そして、もし人民のすべてが土地所有者であるか、または、少数者ないし貴族階級のうちの個人もしくは一部の人々が所有において人民を圧倒することがないような形で、土地は人民に分配されているならば、その支配は共和政体(Commonwealth)となる。

アリストテレスの政体分類との比較

アリストテレスの政体分類を表で表すとこうなる。

支配者の数 「徳」 「堕落」
一人 王政(Monarchy) 専制・僭主制(Tyranity)
少数 貴族政(Aristocracy) 寡頭制(Oligarchy)
多数 国制(Politia) (衆愚政としての)民主制(Democracy)

参照:国家の形式 - だるろぐ

一方、ハリントンの政体分類を表で表すとこうなろうか。

(土地の)所有者の数 政治と所有のバランス 政治と所有の乖離
一人 絶対君主制(absolute monarchy) 僭主制(tyranny)
少数 混合君主制(mixed monarchy) 寡頭制(origarchy)
多数 民衆政体(popular government) 無政府(anarchy)

時代的制約により、富=土地という把握にとどまるのが残念なものの、(素朴な)上部構造=下部構造による社会の把握を盛り込んでいるのが目新しい。もう一つは、徳→堕落(混乱)の原因を個人の資質に求めるのではなく、統治と所有の関係のアンバランスに求めているところがことなる。善い考えは善い結果を生むという理想論ではなく、現状を維持したい勢力と現状を覆したい(改革、革命)勢力の力関係という現実論に落とし込んでいるのが評価できるところになるのだろうか。

近代共和主義の源流―ジェイムズ・ハリントンの生涯と思想

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