『中世の覚醒―アリストテレス再発見から知の革命へ』

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中世の覚醒―アリストテレス再発見から知の革命へ

中世の覚醒―アリストテレス再発見から知の革命へ

普遍論争について知りたくて、むかし 中世の覚醒―アリストテレス再発見から知の革命へ を読んだのだけど、興味深く思いながらいまいちシックリくるところがなかった。なので、本書はそのナビゲーションとして使えるかなぁ、と思って購入してみた。ちなみに、訳者あとがきを読むと、訳者も 中世の覚醒―アリストテレス再発見から知の革命へ を参照したのだという。あんまり普遍論争についての一般向け書籍というのは少ないのかもしれない。

といっても、本書には「普遍論争」という単語は出てこない。カトリック神学(神学*1) vs アリストテレス(哲学) という対立軸で、中世思想史にあらわれる論客の列伝を描いたといった格好で、論争の内容についてもそんなに深くツッコむことがない。その点は少し物足りなかったけど、人物の整理ができただけでもよいし、なによりエキサイティングでよかった。飛行機での長旅で一気読みするにはいいんじゃないかな。

あんまりピンと来なかったのだけど、アリストテレス(哲学)は正統派(?)キリスト教にとってはあくまでも「異教の教え」なんだね。わしはそもそも異教徒で神さまに義理立てする必要がないし、もともと神学よりは哲学になじみがあるわけで、なぜそんなに煮詰まった論争(時には命を懸けて!)をする必要があったのかいまいち理解、実感できない。けれど、そこで研ぎ澄まされた論理学はカントにつながっていているのだと思う。日本に「哲学」がないのは、カウンターパートとしての「神学」に欠けていたからかもしれない。

ちなみに、当時の教養学部 vs 神学部の雰囲気を知るための本としては、佐藤賢一氏の小説がおすすめ。

カルチェ・ラタン (集英社文庫)

カルチェ・ラタン (集英社文庫)

王妃の離婚 (集英社文庫)

王妃の離婚 (集英社文庫)

どっちも珠玉の出来だけど、『王妃の離婚』はそのまんまアヴェロエスの話を換骨奪胎した法廷ドラマ仕立てになっており、手に汗握る展開続きでページをめくる手がついつい速くなってしまいますですよ!

*1:≒(新)プラトン主義