ネコのみのむし袋

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旅行 から帰ると、リビングへのドアが開けっぱなしになっていた。しまった……と、僕は臍を噛んだ。リビングには生ハムの原木が鎮座している。さてはネコに食われたか……と思ったが、確認するに歯形の類はない。原木にかけてあったカバーにも触れられた形跡がなく、ちょっと安心した。

ところが、どうも部屋全体が小便臭い。やられたな、と思った。案の定、リビングに出しっぱなしにしてあった布団には、シミが黒々と広がっていた。溜息一つ、シーツを剥がして洗濯機に放り込む。マットは消臭スプレーをかけてベランダに出す。掛け布団はお風呂場で踏み洗い。ついでにネコ本体もモミ洗いすることにした。己の罪を贖うがよい。

最近はだいぶ慣れてきたとはいえ、ネコをシャンプーするのは一苦労だ。まず 耐猫最強防具 を両腕に装着し、のんきにネコタワーでお昼寝中のネコを捕まえる。ネコはパニックになって爪やら歯やらを立てるが、分厚い皮でよろわれた我が腕はなんの痛痒も感じぬ。恐怖のあまり脱糞までかますのには閉口するが、それはネコを風呂場に放り込んだあと、ウェットティッシュで丁寧に拭きとる。

風呂場に戻ると、隅でネコがウーウーと唸っている。僕は容赦なく腕をつかみ、新兵器「みのむし袋」にツッコ……もうとするが、これがうまくいかぬ。相手も必死なもので、足を踏ん張ったり、噛みついたり、爪を網目に引っ掛けたりして最大限に抵抗する。

汗だくになりながら5分ほど格闘したが、新兵器は失敗かと覚悟した。ネコは隙をついて戒めから放たれ、湯船に飛び込み、犬掻きならぬ猫掻きをしている。達者なものだ。

それを見てふと、いいアイデアを思いついた。厳密にいうとあまりいいアイデアではないのだが、目的の達成には使えそうだ。

まず、猫掻きで必死に湯船のフチを登ろうとするネコを再び湯船に叩き落し、1回沈める。当然、ネコは浮上しようとする。それを確認して、もう一度ネコを湯船に沈める。今度は浮上ポイントを予測して、みのむし袋を広げておく。するとどうだ、勢いよく浮上したネコが、気持ちよいぐらいスッポリと袋に収まるではないか。我ながら完璧な計算だ。

あんまりやり過ぎると虐待じみてくるので余り多用はしたくないが、これはなかなか使えるワザだと思った。

みのむし袋にスッポリおさまったネコ
みのむし袋にスッポリおさまったネコ

袋でがんじがらめになったネコはそのまま、まずは湯船のお湯を抜き、浮かんだウンコを処理する。次に、ウンコまみれのケツをシャワーしてきれいに洗い流す。排水溝には髪の毛を受ける薄紙を置いておいたので、ウンコとネコの毛はそれで回収。まずは風呂場をきれいに掃除する。――掛け布団の踏み洗いを先に済ませておいてよかった。じゃなかったら、悲劇的な事態になっていただろう。

お茶で一服した後は、風呂場に転がっているみのむしをネコ用シャンプーでわしわしと洗う。可哀そうにぶるぶると震えているが、もはやウンコは漏らさない。ときどきシャーッと威嚇するが、そのときはシャワーをお見舞いして黙らせる。そのうち諦めて、悟りを開いたような顔になる。

ドライヤーで熱せられるネコ
ドライヤーで熱せられるネコ

シャンプーを洗い流したら、今度はみのむしを洗面台に送る。ドライヤーで熱風責めにするのだ。飼い主はあまりおしゃれな男ではないので、もともと家にドライヤーなぞなかった。ネコを責めるためにわざわざ購入した、パナソニックのドライヤーである。往生際の悪いネコはここでもシャーシャーと飼い主さまを威嚇するが、そのたびに熱風で黙らせる。首筋を乾かすと目を細めて許しを乞うが、無論、そんなことで容赦などしない。完全に乾くまで温風、冷風で責めあげる。

しばらくするとサッパリとふかふかのネコになった。自室に連れて帰り、みのむし袋をとってやると、ネコタワーの最上階に逃げ込んで、その日はこっちにまったくかまってこなくなった。どうやら拗ねているらしい。仕方ないので、その日はとっておきのウェットフードを出してやった。

次回のシャンプーはもう少し恐怖心を与えず、手早くやってしまいたい。そのための秘密兵器もまた Amazon から取り寄せたので、うまくいけばまたレポートするつもりだ。