日記:詐欺師の口上
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父が長い出張から帰ってきているので、焼き肉や寿司でもてなしている。昨日はお好み焼き屋さんに行った。今週末は温泉旅行に行くだろう。
そんなわけで二人の時間が長く、よく話を聞かされるのだけど――少し突っ込んだ話になると「お涙頂戴」な長い昔話が始まり、結論がうやむやになってしまう。
ところが「われわれはかしこいので」、そういう手口が詐欺師のやり方であることを知っている。
たとえば情報商材や健康食品の Web ページを思い起こしてみよう。ああいうのは、縦に長いのが特徴だ。みんなよく我慢してマウスホイールをくりくり回して下まで読むなぁ(マニ車かなにかか?)、などと感心するほど長いのだが、何も考えず、あれを真面目に全部読んじゃう人は、かなりの確率で騙されてしまう。相手のペースに付き合ってるうちに批判的態度が薄れ、同調的になり、本来自分が何を求めていたのかを忘れ、相手の主張を受け入れてしまうのだ。
つまり、詐欺師は話が長い。そして、話が長いやつはだいたい詐欺師である。
話をぶった切って論点を整理したり、「で、結局何?」と結論を先に引き出そうとすると怒るのも、詐欺師の手口だ。怒りは、その場のコントロールができていないことに対する苛立ちから生まれる。その場を論理以外の、いわば一種の野性的な力で支配してやろうという意欲から生じる。しかし「われわれはかしこいので」、その場が誰のものであるかなどに興味はない。この議論によってどうやって問題を解決すべきか、認識の差をどのように埋めるべきか、これからどう活動していくべきか。その結果、相手に従うこともあれば、こっちに従ってもらわざるを得ないこともあり、また第三の道が見つかることもある――が、詐欺師はそんなことに興味を持たないので、話がかみ合わない。
つまり、詐欺師は議論をしない。相手を丸め込むか、それに失敗すれば怒るだけである。
長い出張から帰ってきた父に「詐欺師の口上だな」などと言い放つほど鬼畜ではないのだけど、こればっかりはどうにかならないものかと思う。母にも散々こういう手口を使ってきたのだろう――そして、長年の神通力が通用しなくなって、また苛立っているのだ。まぁ、母は母で、ちょっと言いたいことはあるんだけど、あんまり言うとこっちは泣いてしまうので控えている。われわれは、女性には優しいのだ。
それにしても、自分にもだんだん忍耐がなくなってきたように思う。むかしは「はいはい、そうだね」と聞き流しながら、要所要所で相手を上げたり下げたりしつつ、部分的に要求を引っ込めさせたり、ほんのり納得させたりできていたような気もするんだけど、最近はそういう手管を使うのが億劫になっている。以前は自分の方がよっぽど上等な「詐欺師」だったのに、今ではふふんと鼻で嗤いながら醒めた目で情報商材ページをながめるおっさんになってしまっている。
どっちが「詐欺師」として上かマウントを取り合ってるうちは遊び仲間だけど、醒めた売り手=買い手関係ではいずれ溝ができてしまうだろう。老骨ならぬ中年骨にムチを打って、もう少し付き合ってやらねばと決意を新たにした。まぁ、心の余裕があれば、そういうのだって嫌いではないのだけどね。
P.S.
あとで弟1号に「親父をいじめすぎた」と LINE を送っておいた。実際、ちょっと反省している。