映画 『バケモノの子』

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細田守監督の話題作。上映時間が2時間ぐらいあって、ちょっとお尻が痛くなったが、かなり気に入ったかも。ストーリーは無難、話の盛り上がりは『もののけ姫』に及ばない感じで、人物描写は『ゲド戦記』よりちょっと上かな? それだけ聞くとビミョーに感じる人もいるかもしれないけど、劇場で子どもも大人もつい笑い声をあげてしまう、いい雰囲気のアニメになっていると思う。

しかし、あれだな、熊徹と九太が宗師たちの教えを乞いに行くシーンは、中島敦の『悟浄出世』*1を彷彿とさせる。しゃべってる間に石になっちゃったり、食べられそうになったりね。そういえば登場人物もサルだったりブタだったりで、西遊記っぽい。もっとも中身はあべこべ。ブタ僧侶は沙悟浄の役回りだし、サルはちょっとだけ猪八戒が入ってる。熊徹は悟空の天真爛漫さと八戒の欲望への忠実さを兼ね備えているな。

光と風と夢 わが西遊記 (講談社文芸文庫)

光と風と夢 わが西遊記 (講談社文芸文庫)

いま手元に『悟浄出世』がないので記憶をたどるしかないのだけど、あの作品*2における妖怪(バケモノ)っていうのは、「自分の欲望に忠実なもの」っていう設定だったと思う。食いしん坊は口と腹が異常に発達していたりってな感じでね。そこがおぞましく、そして“哲学者”としては浅くて不満なのだけど、「あぁ、こうやって素直に生きられたらなぁ」ってのはある。ニンゲンの街ってゴチャゴチャしてて、夜もやたらピカピカしてるくせに陰が濃い。

それに比べ、この作品のバケモノは街もヒト(?)も明るくてとっても素直。とくに次郎丸なんかは当初、人間である九太に意地悪をするのだけど、実力を認めるや否や仲良しになっちゃって、カワイイ。そこらへんが、心の中に闇を抱えてしまった兄・一郎彦や、楓ちゃんがいじめられるシーンとの対比にもなっている。心の中に闇を抱えて生きていかざるを得ないニンゲン。それが本作品の大きなテーマの一つやね。

でも、中盤はそういう設定も忘れちゃうぐらいほのぼので(熊徹のマネをする九太かわいい!)、序盤に耳にした熊徹の「心に剣を持て」というメッセージもだんだん霞んでいくんだけど、終盤になってそれがグッと意味をもってくるところもイイと思う*3。この“心の剣”が何を意味するのかは見る人によって解釈が違うんだろうけれど、カントの「良心」「義務」的な色彩を帯びた、草薙素子が言うところの「ゴースト」なんじゃないかなと感じた。もう一つのテーマ、“父子”とこれがどう関わるのかが自分には見えなかったけれど、まぁ、そんな面倒なことを抜きにしてもだいぶ楽しめた。

ただ、楓ちゃんは別に要らんのとちゃうか。

いやな、「リア充爆ぜろ」というわけじゃないんだ。無理に恋愛要素入れずに、実父にもっとフォーカスすればもっと面白かったのではないかってね。でも、それだと一般向けではなくなってしまうのかもしれないな。

それにしても細田守監督って、男の子(苦学生・勉強できる環境になかったマン)と女の子(頑張り屋・素直な素朴でよい子)が学びの場で出会うっていうシチュエーションが好きなのかな? おれも好きだけど。楓ちゃんカワイイし、おれも壁ドンならぬフェンスドンきめてみたい人生だった。

あと、関係ないけど『白鯨』っていろんなところで使われてるけど、そんなに面白い小説なの? 一度読んでみるかな……。なんとなくめんどくさい話っていうイメージがあるんだが。こういうのは中二心のあるうちにツバ付けとかないと。大人になってから読もうと思うと腰が重くてなぁ……。

*1:青空文庫でも読める

*2:『悟浄歎異―沙門悟浄の手記―』も含む

*3:もうちょっと分かりやすい or 深い演出にしたほうがよかったんではないかという問題は置いといて