働く母親とベーシックインカム
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【ロンドン共同】子育てをしながら働く日本の女性は、男性との給与格差が先進国で最大―。先進34カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)が17日発表した報告書で、日本では働く母親が不利な労働環境に置かれていることが明らかになった。
報告書は教育や労働条件などについて各国の男女間格差を比較。育児期に当たる25~44歳のフルタイム労働者の給与(主に2008年)を調べた結果、日本では子どもがいる女性の場合、給与の中央値が男性よりも61%低く、データのある30カ国中、男女間の差が最も大きかった。30カ国の平均は22%。
本当にこれは“悪い”ことなのだろうか。
たとえば、日本にはいまだに専業主婦を前提・優遇した制度が多く残っている。これらを活用しようと思えば、
- 男性は正規社員として働き、“自然賃金”よりも多めに収入を得る
- 女性は育児に専念する(賃金=0)
のが最適になる。“自然賃金”というのは、“男・女という属性を社会が考慮しないと仮定した場合の賃金”を指している。まぁ、それぞれの世代における全労働者の平均賃金だと考えればいいと思う。
この社会で女性が働くのは、男性の足りない収入を補うか(おもにパート労働、今回の統計からは除外されている)、制度の恩恵をあずかれないために働かざるを得ないか(男性が非正規雇用であったり、女性が単身の場合)のどちらかになる。どちらにしろ、“自然賃金”よりも多めに収入を得る正規雇用男性の割を食って、低い賃金水準に甘んじるしかない。
一方、専業主婦を前提・優遇した制度がない社会では、
- 男性が働いて“自然賃金”を得る
- 女性も働いて“自然賃金”を得る
のがより好ましいと言えるだろう(男女に労働能力の差はないと仮定する)。であれば、後者の社会のほうが必然的に女性のフルタイム労働者の給与は高くなる。
かいつまんで言えば、日本はまだ“母親が働くこと”が前提の社会になっていないのかもしれない。なので、これを改革するということは“母親が働くこと”が前提の社会へ変えるということを意味するかもしれないし、今まで育児に専念できていた女性たちをフルタイム労働へ投げ込むことを意味しているのかもしれない。
ただ、“母親が働かなくていいように父親の賃金が割増しされている”“育児に専念する専業主婦”などという古き良き日本的雇用モデルが失われているのも確か。さっさと専業主婦を前提・優遇した制度を廃止して、母親に働いてもらうことが前提の制度へ変えた方がいいのかもしれない。
まぁ、個人的にはベーシックインカムという方向も考えてほしいのだけど。
ベーシックインカムの源流の一つは、家庭内労働が「賃金=0」なのはどうなの? という疑問にあった。掃除・洗濯・炊事・子育てだって、社会にとって役に立つことでは? 別にそれを担うのが女性である必要はなく、男性でもいい。とにかく、賃金のために家庭が蔑ろにされるのは、あまり好ましくないのではないだろうか。
保育所や幼稚園に預けるおカネを捻出するために母親が働きに出るって、ちょっとおかしい気がするのだけど、“働くことが前提の社会”を作ってしまうと、結局そういうことが起きる。
働く母親は高給取りであるべき? 男女差別はよくないけれど、それとはまた違う次元の話であるようにも感じる。