第一章 道可道,非常道

執筆日時:

一応『老子』は自分の座右の書らしいので*1、たまにはその話題についても触れてみる。全部やるとすれば、かなりの量になるな。あくまでも現時点でも解釈で、わかんないところはわかんないと書くし、おかしいところもあると思うので、笑って読んでくださればと思う。

道可道,非常道。名可名,非常名。無名天地之始;有名萬物之母。故常無欲,以觀其妙;常有欲,以觀其徼。此兩者,同出而異名,同謂之玄。玄之又玄,衆妙之門。

『道徳経』第1章

道德經 - 中國哲學書電子化計劃

上・下篇の順はもしかしたら本当は逆なのかもしれないが、従来の説に従えば、上篇の冒頭にあるこの章が『老子』の最初の章となる。

ここでは「徼」の意味だけが分からない。いい加減、まともな漢字辞典を買わないとだめだ。何かいいものがないだろうか。

徼(きょう)
「げき」とも読む。
国の辺境、見張りをおくとりでといった意味を持つ。 目に見える現象的な側面という意味もあり、老子には「常無を以ってその妙を見んと欲し、常有を以ってその徼を観んと欲す」とある*2。 また、中庸には「小人は険を行ないて以て幸を徼(もと)む」とあり、「得られそうもないものを無理に求める」という意味もある。

徼とは - 語彙

僕が愛読している 福永光司 - Wikipedia 氏の『老子』によれば、「徼」は「皦(キョウ、あきらか、しろい)」の借字で、「妙」と対応した押印をなすとのこと。「妙(かそけし:実在世界)」「徼(あからさま:現象世界)」と訓読されている。

この章では、やはり「道」という言葉に目が行ってしまうけれど、いきなりその意味を知ろうとするのではなくて、もっとわかりやすい「名」から入って、その対語としてとらえるようにするとよいと思う。つまり、「名」は“名前、名辞、言葉による実体の指し示し、概念”のことだとなので*3、「道」は“それによって指し示される実体そのもの”であると解釈できる。のちの章のことも考えれば、道とは“世界まるごとそのまんまとしての実体”のことなのかもしれない。

道可道,非常道(世界の実体はとらえがたい、言葉で明確に指し示すことができるものではない)
名可名,非常名(言葉だって変わりうる、世界の実体を明確に指し示すことのできる言葉などない)

無名天地之始(世界がはじまったとき、言葉なんかなかった)
有名萬物之母(人間が言葉で指し示して初めて、万物が生まれた(把握できるようになった))

以降は後代の加増とみる説もあるらしい。個人的にも、これまでの24文字で充分だと思う。

故(だから、)

常無欲,以觀其妙(世界の本質をつかもうと思えば、無欲でなければならない)
常有欲,以觀其徼(有欲であれば、世界の上辺しかわからない)

「無欲」とは、好悪や先入観を取り除いて“名(ことば、ロゴス)”のみで、論理的にとらえれば、という意味にとっておきたい。名前は言葉、言葉は論理、だよ。逆に言えば、「有欲」は“感覚的に”“感性で”とらえれば、という意味になると思う*4。「欲=欲望」ととらえるのは、個人的にはつまらない。ある意味、真理に対して科学的に立ち向かうか、感性的に立ち向かうか、がここでは問題なのだと思う*5。別に老子は僕らに「欲望のない、干からびた人間になれ」と呼びかけているのではない、と“感じる”(あぁ、「無欲」になり切れていない)。

最後の句はまったくわからない。両者とは“道”と“名”を指すのだろうか、“妙”と“徼”を指すのだろうか。「衆妙の門」とは、“あらゆる優れた道理の入り口”を意味するらしいが、なんだか適当にごまかされた気分だ。

此兩者,(“道”と“名”、“妙”と“徼”の二つは、)
同出而異名,(名こそ違え根っこは同じもので、)
同謂之玄。(めんどくさいからまとめて“玄”って呼んじゃう。)

玄之又玄,(玄のまた玄を深く知るのが)
衆妙之門。(わしが思うに、あらゆる優れた道理の入り口やで)

「はじめに言葉があった」だの、シニフィアンとシニフィエ - Wikipedia だのにも通じる考えなのかなぁ、と思う。「老子」はロゴスではなくカオスを扱う哲学なのだと言うけれど、その先入観も排しつつ、時間をみつけて試みに自分なりの解釈してみたい。むしろ老子は「ロゴス大事じゃね?(というか、ロゴスも感覚も大事やろ)」と言っているようにも、自分には思える。よく「老子には固有名詞がない」というけれど、普遍的な論理を重視したのならば、特殊な名辞を排するのはごく自然な流れだ。

ふと思い出して、三年前の記事を読み返してみた。

あんまり今と解釈は変わってない気がする。しかし、「史上初めての"ネットワーク哲学者"」って、自分で書いてるのにさっぱり意味が分からん。けれど、ちょっと面白いかもって思った。

*1:知らんけど

*2:この章にある。そう訓むか?

*3:知らんけど

*4:知らんけど

*5:老子的にはどちらもありで、あとでこいつらをまとめて「玄」と呼んでいる。

*6:そのうちこのサイトはリンク切れになるでしょう