戦争のルールと徳
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カミルスが、ローマに敵対するファリスキ族と同盟したファレリイの街を攻めたときのこと。
ファレリイの街は立派な城壁に守られていたので、ローマ軍に包囲されても、城壁を守るもの以外は日常と変わらない生活を送っていた。子どもたちなぞは、いつも通り学校へ行ったばかりでなく、教師に引率されて城壁を散歩しさえもした。
ところが、この教師なるものが裏切りを働いた。自らが預かる子どもたちを、ローマ軍に売り渡そうとしたのだ。
「自分はこの子らを預っている教師であるが、この子らに対する義務を果たすよりは、閣下のお世話になる方がよいと心得、子どもをカタに、街を閣下にお引渡し申すべく罷り越しました」
「これを聞くとカミルスは、これはひどい仕打ちだと思った」。そして、その場の者たちにこういった。
「戦争というものは、たいへんな不正や暴力的行為によって遂行される過酷なものだが、それでもなお、正しい人間が戦うには掟がある。勝利にしても、邪な人間、神を恐れぬ人間が差し出す有利な条件を勝ってまで求めるべきではない。――偉大な将軍とは、己の武勇によって戦うものであって、他人の卑劣さに頼るものではないからである」
そして、部下に命じて、教師の服を引き裂き、後ろ手に縛り、子どもたちに棒やムチをもたせ、この裏切り者を懲らしめながら街へ追い返した。
ファリレイの市民は集会を開き、開城することを決した。
勝利よりも正義を重んずるローマ人が、われわれに、自由より敗北を愛することを教えた。我らは戦う能力においてローマ人に遅れをとるとは思わないが、徳において敗れたと認めることに異存はない。
プルタルコス『英雄伝』 カミルス