『新三河物語』
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最初はおもしろくなかった。
登場人物が多いのに、それを印象づけるエピソードや叙述が少ない。なので、世界に入って行きづらかった。そもそも最初の方は主人公が誰なのかわかりづらい。個人で言えば平助(彦左衛門)、集団で言えば大久保一族、になるのだろうけれど、それにしても焦点がボケている感じがした。
加えて、漢字の意味、資料の解釈など脱線が多く、いちいち気が削がれる。平行して司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読んでいたのだけど、比べてみるととてもそれがよくわかる。司馬さんは話の脱線がうまい。あと、儒教的・五行的な思想を無理矢理注入している感じがして、それも鼻についた。
と、まぁ、いろいろ言ったけど、それを乗り越えて下巻のあたりになると、俄然面白くなってきた。家康の豹変(むしろ変わっていないとも言えるが)して大久保家は没落していく。けれど、常に鮮やかに見を処していく平助だけは誰も傷つけることができず、のちに大久保家は平助を中心に旋回して復興を果たしていく。その点がまたちょっと淡白な叙述で不満なのだけれど、ラストには忠世・忠佐、登場した大久保家の人々の顔が走馬灯のように眼の奥に浮かんでくる気がして、「あれ? 案外おもしろかったじゃないか、もう一度読もうかな」という気にさせられた。
まぁ、その前に「曽我物語」でも読まないと。わしはこれを読んでないから、なんで平助がそれに拘るのかからしてよくわかってなかった。再読書リスト入りですな。