『贈答の日本文化』
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モース『贈与論』で検討された"贈与"の形態を、日本の贈答文化にも適用してみようというのが本書の試み。日本でも"贈与"の関係が普遍的にみられることを示すと同時に、いくつかの日本独特の贈与風習があることも指摘している。
継続的な贈与関係が維持されるには、以下のような要件が必要だ。
- 与えるという行為
- 与えられたものを受け取る義務
- 受け取ったら、それに見合うモノを返す義務(半分だけ返す"半返し"といった形態もある)
たったこれだけあれば、贈与関係は(義務が遂行される限り)永遠に駆動する。その義務は負担に感じられることもしばしばあるが *1 、それでも贈与関係というのが普遍的にみられることには、なにか理由があるのだろう。本書ではそこまで踏み込まれていないので、あとは自分で考えることになる。
また、ただ与えるだけの"純粋贈与"と、近年の献血事情にまで話題が拡大しているのも興味深い。一神教の世界では"純粋贈与"という贈与形態が多くみられるが、あくまでも人間関係が中心で、神ですら人間関係の延長にある多神教世界では、(長期的には)貸し借りが0になる贈与が主流。献血やボランティアといった"純粋贈与"行為にすら、何らかの見返りを求めてしまう日本人のメンタリティも、宗教観に根ざしているのかもしれない。経済的な"交換"と"贈与"の違いについても考えさせられた。
それだけのとどまらず、モースから派生した"贈与論系"(?)の議論にも広く触れられていて、そちらも面白い。逆に言えば、『贈与論』を先に読んでおかないと本書の魅力は半減してしまうように思われる。社会学でも古典と呼ぶべき本なので、ぜひ『贈与論』のほうも読んでみて欲しいと思う。
*1:本書におけるアンケート調査でもその様子がうかがえる