『老子・荘子』

執筆日時:

老子・荘子 (講談社学術文庫)
森 三樹三郎
講談社 ( 1994-12-05 )
ISBN: 9784061591578

老荘思想の解説からその歴史までを丁寧に解説。儒教や仏教ーーなかでも禅宗と浄土教との関わりについても触れられている。

老荘思想(道家)は、もちろん老子と荘子の思想を言い表すが、老子と荘子の思想にも若干の相違がある。たとえば、老子は多分に_「政治志向」_で他者との関わりがテーマとなっているが、荘子ではそのような部分が取り去られ、あくまでも_「個人」_の生き方がテーマになっている。漢初までは「老荘」よりもむしろ「黄老」と称されていたように、老子の思想が前面にでて政治にも影響を与えた *1 が、次第に荘子の思想が重きをなすようになり、公は儒教・私は老荘思想(≒荘子の思想)というのが中国知識人のライフスタイルとなった。

個人的には、荘子よりも老子の思想に可能性を感じる *2 。自分だけの「夢の世界」に逃げてしまう嫌いのある荘子よりも、他者との関わりの中でいかに「自然に」生きるかを問う老子の方が、「社会が経済に埋め込まれた」 *3 現代に生きる僕たちにとって必要なのではないだろうか。

また、漢以降における老子を"アクティブ"に解釈する *4 思想にも可能性を感じる。「無為自然」とは決して「何もしない」ことを勧めているのではなく、「無を為す」ことを目指していると解釈できるのではないか。無とは道であり、万物のあり方・動きに逆らわず、むしろそれを活用することを言う。老子には、それを体現するためのヒントが多く隠されている。兵家や法家といった諸子百家に影響を与えたのも、その思想の豊穣さゆえではないか。

*1:前漢の曹参などが代表

*2:著者は荘子の方を完成度が高い思想だと評価しているようだ

*3:ポランニーだったっけか

*4:『淮南子』など