バルナーブ、政治家やめるってよ。

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王の逃亡 (小説フランス革命 5)

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議会の迷走 (小説フランス革命 4)

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フイヤン派の野望 (小説フランス革命 6)

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『革命について』 - だるろぐ に限らず、革命論や政体論ではよく「構成(Constitution)」の話がよく出てくる。

constitution

1【不可算名詞】 構成,組織,構造 〔of〕.
用例 the constitution of society 社会組織.
2【可算名詞】
a体質,体格. 用例 have a good [strong, poor, weak] constitution 体質が健全[丈夫, 貧弱, 虚弱]だ. b気質,性質. 用例 have a cold constitution (性格的に)冷たい人である.
3【可算名詞】 憲法
用例
a written constitution 成文憲法.
4【可算名詞】 政体,国体.
用例 a republican constitution 共和政体.
5【不可算名詞】 制定(すること); 設立(すること), 設置.
用例 the constitution of law 法の制定.

constitutionの意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書

かつてはこの意味がよくわからなかったのだけど、今では少しわかる気がする。自分なりに表現すれば、「固定化された権力構造」とでも言えようか。

フランス革命の前は、王を頂点に、聖職者(第一身分)・貴族(第二身分)が続き、一番下に一般市民(第三身分)があった。王権と教皇権の争いや、王を凌ごうと画策する貴族の蠢動こそあったが、この体制――アンシャン・レジーム――はおおむね受け入れられていた。

しかし、王室の財政が極度に悪化すると、ルイ16世は100年以上ぶりに第一身分・第二身分・第三者身分を集めた会議「三部会」を招集し、財政再建の助けを求める。これに喜んだのが、これまで政治にほとんど関われなかった第三身分で、財政再建という主題はそっちのけにして、第一身分・第二身分と同等の政治的扱いを王に求めた。要するに、人権宣言や憲法を定め、「人間は基本的にみんな平等だ」という社会を作り上げようとした。

――というのは建前で。

第三身分も一枚岩ではない。富める市民(ブルジョワ)と貧しい市民(サン・キュロットなどと呼ばれる人たちが代表)がいる。バスティーユ襲撃あたりでは両者の利害が一致しており、協力して革命(≒これまでの権力構造をいったんチャラにして、新しい権力構造を構成する行為)を進めてきた。

しかし、富を基準に政治参加の可否を定める「マルク銀貨法」が制定されるに至り、両者の温度差は一挙に表面化する。革命を推し進めてきたジャコバン派から、次々と脱落者が生まれる。革命におびえる王と妥協して、ドロドロになった権力構造を今の自分たちに有利な状況で固定化しようとする人たちが続出したのだ。それがフイヤン派であったり、ジロンド派だったりするのだが、彼等は皆ここで革命を手打ちにし、現在の状況を“国体(constitution)”として“確定(constitution)”しようと試み、失敗した。

ミラボーが構想したのは、何はともあれ権力を行政(王)と立法(議会)に分けることだった。いずれ行政を担うのは世襲の王ではなくなるかもしれないが、それは遠い未来の話で、とりあえず今は新興のブルジョワよりも外交と戦争を遂行する能力のある王(もしくは王権がこれまで育ててきた官僚機構)が役にたつ。行政・立法の分化さえ成り、それが安定して運営されさえすれば、国民はベストとは言えないまでもベターな自由を享受できただろう。

しかし、ミラボーが志半ばにして倒れると、その遺志を継ぐ者はいなくなる。檜舞台に初めて立って舞い上がった議会は行政まで掌握しようとやっきになり、曲がりなりにも王権を擁護してくれていたミラボーを失った王はパリを捨て、王妃マリー・アントワネットの実家であるオーストリアへ亡命しようとする(ヴァレンヌ亡命未遂事件)。これにより、第三身分は王に失望してしまう。「三部会を招集し、第三身分の意見に耳を傾けてくれた名君」というイメージは地に堕ちてしまった。

一方、諸外国は革命が自分たちに波及することを恐れ、フランス議会に王の保護を要請(ピルニッツ宣言)。すると、諸外国の軍勢を引き入れて一発逆転を狙う王、戦争により生活の安定が損なわれることを恐れる穏健派、戦争を逆手にとって王を排除して共和制を樹立し、早期の革命終結を模索し始めたジロンド派、あくまでも反戦を貫く元祖ジャコバン派(山岳派)などが入り乱れて、割と大変な状態になる。

また別な神殿が建てられつつあるようだよ。それも他者の立ち入りを許さないような、なんとも狭量で、しかも尊大極まりない神殿がね。

ミラボーの残した言葉通り、新しい聖職者や貴族になりたがる輩は後を絶たず、次々と新しい神殿<constitution>が築かれ破壊されていった。そんななか、ロベスピエールのもとをバルナーブが訪れる。かつては同じジャコバン派として活躍しながら途中でブルジョワたちの神殿を築くために離脱し、その弁舌から“ミラボーの再来”“三頭派”などと祭り上げられ、フイヤン派を率いていたあのバルナーブだ。

「私がいても同じです。なんとなれば、問題は革命が続くということなんです。憲法があり、法治国家があるというのに、それに満足することなく革命は続き、のみならず、その制御不能な状態、まさしく無法な状態を上手に扱えるとうぬぼれる馬鹿者が、これからも跡を絶たないのです」
「……」
「とにかく、ロベスピエール氏、あなたも気を付けてください」
「えぇ、ご忠告ありがたく拝聴します。ただ一つだけ。それにしてもどうして私に」
「革命が続くからです。それを私は結構とは思いませんが、思わないなりに革命が続くのであれば、ロベスピエール氏、それを指導するべきはあなただと思います」
「私など……。それほどの器では……」
「ははは、まさに器じゃないからですよ」

バルナーブはロベスピエールにこう言い残して、革命の最中、故郷のドーフィネへ去って行った。ジロンド派の台頭を予感して、自分たちフイヤン派の二の舞が行われることを思い、嫌気がさしたのだろう。しかも、自分たちよりもさらに先鋭化した、狭い神殿を築こうとしている。これは早めにトンズラするに限るだろう。

――まぁ、にもかかわらずあとで無理やり引っ張り出されてぶっ殺されるんだけどね。革命、怖い。