『ローマ世界の歴史』

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ローマ世界の歴史 (西洋古典叢書)

ローマ世界の歴史 (西洋古典叢書)

  • 作者: ウェレイユスパテルクルス,西田卓生,高橋宏幸
  • 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
  • 発売日: 2012/03/13
  • メディア: 単行本
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この簡易なローマの通史を書いたというウェレイユス・パテルクルスというひとを自分はまったく知らなかった。それもそのはずで、今回が本邦初訳という。マルクス・ウィキニウスよ、あなたが執政官在任の年から数えて1984年後のことである。

ちょっと面白いのは、自分がこれまでに接してきた人物評とまったく正反対の記述が割と多くあるところ(とくにセイアヌス!)。たとえば、グラックス兄弟について――まずは、兄のティベリウス・グラックス。

この人物はまったく非の打ちどころがなく、才能は花開き、志は高潔で、要するに完璧な素質と勤勉とを備えた人間が獲得可能なかぎりの美徳に恵まれていた。

まぁ、これは割とみんな一致してそう記述していると思う。グラックス兄弟は穀物法を成立させて貧民を救済し、偏った土地の分配を解消し、古き良き自立農を復活させようと試みた。しかし――

人々は皆情勢の安定を望んでいた。しかし、ティベリウスはすべての上下を逆転させ、国家は危機的、極めて危険な状態に陥った。グラックスは、公共の利益を代表する同僚のオクラウィウスから権限を剥奪し、農地の分配と植民市建設担当三人委員会を創設した。しかしその三人委員会とはティベリウス自身と、元執政官で義父のアッピウス、そうしてまだほんの若者だった弟ガイウスから構成されていた。

確かにそうかもしれない。ティベリウス・グラックスは「破滅的思想に染まって」いたのかもしれない。自分は、今のリベラルなものの見方に毒されていたのかも。一方、弟はこんな感じ。

それから十年の年月をはさんで、ティベリウス・グラックスを襲った同じ狂気が今度は弟ガイウスを襲った。総じて彼は美徳ばかりか悪徳まで兄に酷似していたが、弁論の才能はあによりはるかに優っていた。魂を平静に保てればプリンケプスにもなれたであろうが、兄の死に復讐するためであれ、王権への道慣らしをするためであれ、いずれにせよガイウスは兄の先例に従ってまず最初に護民官に就任した。

ウェレイユス・パテルクルスからみれば、資質は十分、じっと時を待てば執政官の座も確実を思われたのになぜ、と思ったのだろう。この改革を“王権への道慣らし”とみたのも、当のウェレイユスがそうしたよこしまな欲望を抱いていたからかもしれない。というのも、人間というものは自分の器にあわせてしか解釈できないものだから。他人の行為の崇高さが理解できないとき、人はそれを卑しく解釈してしまう。そのこと自体に、自分の卑しさが投影されているとも気づかずに。まぁ、グラックス兄弟にそうした欲望がなかったとは言い切れないのだけれど。

後半、自分の生きた時代に近づくにつれ「!」が増えていくのも、一歩引いたところから見てる分には面白い。だんだん冷静さを欠いていき、カエサルへの賛美と称賛が幅を利かしてくるのだけれど、それはそれでヴィヴィッドな感じで楽しめた。

前半の建国からポエニ戦争終結あたりまでが欠落しているのがとても残念。