『近代共和主義の源流―ジェイムズ・ハリントンの生涯と思想』

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近代共和主義の源流―ジェイムズ・ハリントンの生涯と思想

近代共和主義の源流―ジェイムズ・ハリントンの生涯と思想

日本でハリントンを網羅的に研究したひとはほとんどいないみたい。ホッブズについてはみんな挙って言及するのに(ハリントンもそのひとりだ)、ある意味で彼と対をなすハリントンについては忘れ去られている。なんということだ/(^o^)\高校の世界史でも『オセアナ』の書名を聞くかどうかってところかな……

ジェイムズ・ハリントン (英: James Harrington または r が1つの Harington) (1611年1月3日 - 1677年9月11日)はイングランドの古典的共和主義 (classical republicanism) 思想の政治哲学者。1656年に著した共和国論『オセアナ』が有名。

ジェームズ・ハリントン - Wikipedia

ハリントン一門はノルマン征服からの名家で、ジェイムズはその末葉・エクストンのハリントン家(のそのまた分家)に生をうけた。エクストンのハリントン家は代々州知事や州選出の国会議員を務める家柄で、男爵としても資産は多い。決して有力貴族ではないし、没落したといえばいえる家だけれど、地域に根付いた富裕層に位置する、つまりはジェントリ(郷紳:下級地主層)の生まれだった。

当初、オックスフォードのトリニティ・カレッジで学ぶも父の死去で退学し、遺産でヨーロッパで見聞を広める。とくにヴェネツィアをはじめとするイタリア都市国家、三十年戦争で独立を勝ち取りつつあるオランダを目の当たりにし、共和主義に目覚めた。

帰国後は、チャールズ一世に近侍し*1、主教戦争(1639、1640年)にも従軍。国王と共和主義者の関係がどうだったのかは興味深いところだけれど、思想こそ違え互いに紳士かつ主従の関係を保ったらしい。

実際、主教戦争の失敗によってイングランドで内乱が発生し(1642年~)、国王は一度スコットランド軍に囚われるが、ハリントンはイングランド(議会)軍に引き渡されるに当たり侍従を務め(1647年)、国王を保護している。そのまま2年間侍従を務めたが、議会の混乱の隙に逃亡を図った国王は再び囚われ、1649年に処刑される。この一連の事件が、いわゆる清教徒革命(1641~1649年)だ。

王の死後、ハリントンは護国卿クロムウェルが指導する共和主義体制のもと、『オセアナ(オーシアナ)』の執筆を進める。1656年に『オセアナ』が出版されるまでのハリントンの動静は不明で、なかば隠遁生活を送っていたらしい*2。その著書の中で、ハリントンは共和主義を標榜しつつも実質的には君主制を敷くクロムウェルを批判し、真の共和主義とはなにかを架空の国家“オセアナ”として披露している。この本は一度差し止めを食らったらしく、無事出版許可が下りたものには護国卿クロムウェルへの献辞がついている。

やがて、オリバー・クロムウェルが死去し、その息子が護国卿に就任すると、ハリントンは本格的な政治活動を開始する。このサークルは「ロータクラブ」と呼ばれ*3、一定の支持を受けた。

しかし、処刑された国王との親密な関係と、恐怖政治下で出版された熱烈な共和主義の書『オセアナ』。そして、クロムウェル亡き後の「ロータクラブ」。この3つが晩年のハリントンに災厄となって襲い掛かる。

その後、共和主義が崩壊して王政が復古する(1660年)と、ハリントンは再び書斎の人となった。しかし、王党派への意見書『国政指針書』を記したことでその怒りを買い、逮捕の憂き目にあう。さしずめ“前国王に従っていながら処刑を防げず、その死後はクロムウェルにへつらって共和制を支持した裏切り者”といったところだろうか。このとき、ハリントンを逮捕しに来たのはロータクラブのメンバーでもあったプルトニ卿だった。

ハリントンはまともな裁判もうけさせてもらえず、政治犯としてロンドン塔に拘禁される。実の妹が“権利の請願(1628年)”に基づき正当な裁判を要求しても、セント・ニコラス島の監獄へ移すなどしてはぐらかされ、とうとう最後には精神を病んでしまう。しばらくして、親戚から援助された5,000ポンドの保釈金で釈放され、形式的な結婚をして妻の献身的な介護を受けるが、正気と狂気の間を行き来しながらゆっくりと衰え、1677年に亡くなった。墓はウェストミンスター寺院にあり、かのウォルター・ローリー卿の隣であるという。

結局、彼の共和主義はイギリスで日の目を見ることはなかったが、アメリカの建国に当たっては「オセアナ」の憲法と精神が大いに参照されたという。

*1:ハリントン家は王室との縁が深かった

*2:この間、ホッブズは亡命の形をとっていた

*3:“ロータ”はハリントンが主張した「輪番制(rotation)」と関連がある