『法と経済で読みとく 雇用の世界』

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法と経済で読みとく 雇用の世界-- 働くことの不安と楽しみ

法と経済で読みとく 雇用の世界-- 働くことの不安と楽しみ

通勤時間にすこしずつ読み進めていたので、読むのに1ヶ月かかった。

なんか人間関係がドロドロしたサイドストーリー付きなのが、結構面白い。きっとこういうドロドロと直接対決していかなきゃいけないのが、法学なんだろうなぁ。その点、経済学は個人の欲望を肯定する割にはアッサリしていて、ドライだ。具体的な個人を一度みんな足しあわせて、それを人数で割った“抽象的個人”を扱うためだろう。彼らは確かにわがままだけれど、最後にはちゃんと“均衡”する実に良い子なのだ。

メインテーマは、労働法学と労働経済学の協同の可能性。

本書では、法学的な問題点を挙げつつ、経済学的なアプローチによる批判もとりあげるという“両論併記”のスタイルが貫かれている。とはいえ、“経済学的なアプローチ”の説明が個人的にはこなれていないなと感じられた。これで経済学に不慣れな人が、これを十全に理解できるだろうか。むしろ、経済学をかじって、キーワードを目にするだけで「あぁ、あれか」とわかる人のほうが、この本の内容はスイスイ理解できるような気がした。

法規範というのは、いざこざを解決する際の根拠となる「紛争解決規範」であると同時に、前もって行動を縛る「行為規範」でもあるのだそうな。法学は「紛争解決規範」としての法規範をおもに扱うので、その法律が社会にどのような影響を与えるか、つまり「行為規範」の部分が若干疎かになる。一方、経済学のメインフィールドはまさに「行為規範」の部分にある。そこに協同の可能性がある。

もう一つ個人的に感じたのは、法学は過去との連続性を非常に尊重するということだ。法を改正するにしても、以前との整合性が重視される。その点、経済学は現状のアラを探すのは得意だけれど、提示する解決策は(とくに法学者目線だと)突拍子もないモノが多くて、法学的な実装になんのあるものが多いのではないかな。そこのすり合わせも今後の課題であるように思われる。

大内先生の本を読んだのは二冊目かな。……と思ってメディアマーカーを調べたら、3冊目だった。どれも法学一辺倒ではなく、経済学からの視点も盛り込まれていて、とても信頼の置ける本だと思う。先生のブログ(アモーレと労働法)も毎回読んでいるが、内輪ネタが少し多いものの、読んでいて勉強になることが多い。将棋と阪神のネタも好きだ。

雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理 (ちくま新書)

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雇用社会の25の疑問労働法再入門(第2版)

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個人的には「25の疑問」が読みやすくてオススメ。道路に出る以上、最低限の道路交通法は誰しもが知っているべきだ。同様に、働く以上、最低限の労働法は誰しもが知っているべきだ。

PS: 本書でまったくの初耳だったのは Column 23 の「労働災害と民事損害賠償」の項目だけだった。“労災保険と損害賠償の二重取りはできない”(ただし、慰謝料の部分についてはこの限りではない)というのを知っていれば、しゃしゃり出てきた人権派弁護士さま(笑)に対抗できたのにな。結局、こちらの言い分は通ったけど、論点をそっちにしておけばもっと簡単な話だったのかもしれない。